第25話
「ニートですらないって、どういうことですか。」
「そのまま。働いてる痕跡が見られない、かといって引きこもっている痕跡もない。謎だらけよ。」
「先輩の家の人は、家に働いた痕跡をまき散らす人なんですか。」
「いえ、私にもわからないわ。私にもわからないの、普通の家の普通の父親の部屋というものは。」
珍しくなんのひねりもない先輩の声はいつになく冷たく感じた。
「そうですか、ごめんなさい。でもほら、例えば会社に荷物全部おいてきていたとか、果ては仕事道具が必要ない仕事をしていたとか、そんな可能性もありませんかね。」
「ありえないでしょう、そんなこと。これだけスーツがあってサラリーマンじゃないわけ?そうじゃないにしても名刺の一つすらない。社会人としてそんなことあるものなのかしら。まあ、あなたという存在があなたのお父様の何よりの証明なのかもしれないわね。」
それならばきっと、先輩のお父様も先輩という存在が何よりも証明になるのだろうなと。しかし、確かに言われてみればおかしいところは多い、というかおかしなところだらけではないか。
今まで自分のことをそこまで詳しく調べてなかったが、このくらい気づいていてもよかっただろうに。それだけ無意識に目を背けたかったのだろうか。
「そういえば、あなたのご家族の持ち物って、誰かからもらったりしなかったかしら。」
もらった持ち物といえば、せいぜい家の鍵と自分の財布くらいだ。事故の衝撃で車が炎上、私以外すべて燃えてしまったらしい。シートベルトをしていないで、車から投げ出された方が助かるだなんてなんて皮肉なことだ。
「持ち物は、自分の財布とこの家の鍵くらいしかもらいませんでしたね。」
「あなた、よくそれでここまで生きてきたわね。それじゃ、ご家族の名前はなんていう人だったのかしら。」
「確か、月山朧と、明子だったはずですね。」
「朧って、ああ道理であなたそんな名前なのね御影君。」
「先輩も萌えだったら、萌え萌えキュンとかやってくださいよ。」
「だから毎日やっているでしょう、私はいつも萌えヒロインたちにキュンキュンしているわ。ちゃんと使命を全うしているの。」
先輩が受ける側なのか。それと氏名記入欄に書いて悶える名前を出さないでほしかった。それは先輩も同じことか。
「さて、じゃあ今度はお母様の部屋を探してみましょう。こういうのはだいたい女の人の部屋にあるものよね。」
まあ確かに女の人の部屋は勝手な妄想だが、思い出でできていそうな感じはするけれども、実際問題そううまくはいかないものだ。
「ここがお母様の部屋ね、失礼するわ。さあーてお宝お宝。」
いやさすがにこの部屋にお宝はないだろう。一種のプレイみたいなものじゃないか。
「ハッ!!月山君、ついについに見つけたわ。お宝よ!」
え、本当にそういうプレイしてたのマジで…。いや正気じゃないよそれは笑えないよ本当に。控えめに言って吐きそう。また先輩に弱みを握られる、なんとか証拠隠滅しなければ。
「いやそれは違うんです、一種の教養です、教養として必要なことだったので学んでいたに過ぎないんです。そうやって世の中の男子は大人になっていくんです。
これは必要過程であって、出過ぎたプレイをしていたわけではないんです。いたってノーマルですから安心してください。」
「何を言っているのかわからないわ月山君。見つけたのは日記よ。今のに触れたら本当に絶交しなければならないからやめておくわ。」
十分わかってんじゃねえかと。そんなことより日記?そんなものこの部屋にあったか?全く記憶にないがこれは確かにお宝だ。
「ちょっと見せてください、借りますよ。」
「ちょっと私が見つけたのよ、そのお宝は。まあいいでしょう二人で見れば済むことだわ。」
背表紙にはちょうど1月~12月と書かれている。いまは4月の終わり、まだ123月分は残っているはずだ。
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