第24話
諦めて先輩を連れ家に帰る。この人は自分の研究はどうしたのだろうか。あれだけ熱心に研究しているというのに、そうかと思えば突然後輩の家に遠足に来る始末。
おそらく頭はいいだろうに、どうしてこうも変態なのか。一つの要素が他すべてをかき消してしまっている。なんだか可哀そうに見えてきた。そう思うことでこの状況に落ち着きを取り戻した。
「お邪魔します。月山君の家、案外学校から近いのね。ふふっ、よかったわね女の子を家に連れ込むことができて、これで毎日デリバリーしなくて済むわよ。」
こういうのはあれだ、まともに取り合ったら揚げ足取られるだけだ。
「んで、どうですか先輩。霊圧とか感じますか?」
「ええ、とてもおぞましいものを感じるわ。おそらくあなたの部屋のベッドの下か、本棚の裏か、あるいは本棚にそのままね、ここは魔境だわ。」
「残念、無いんですよそういうの。」
別にそんな場所に隠してあるわけではない、という意味ではなく。実際にこの家に最初に来た時も確認したが存在しなかったのだ。加えてこの家にはパソコンやスマートフォンなどの媒体すらなかった。
「え、嘘。お宝さがしゲームすらできないなんて、しけてるわねこの家、というかあなた。」
この変態がお宝さがしゲームをするためだけにこの家に来たのならざまあみろと思った。
「ふふふっ、まあ月山君にはとっておきのオカズがあるものね。生で見たことがあるのなら、それを思い出せばいいだけだもの。つまり私は最初からお宝を手にしていたということね。」
とっておきのオカズ?とはなんのことだかさっぱりわからないが、先輩をリビングに促して、一様お茶を出しておく。
「それにしても、冷たいわねこの家。」
「冷たいって、もう梅雨になるころですし、だいぶ温かいと思うんですけど、暖房でもいれましょうか?」
先輩は、私の出したお茶を飲みながら部屋を見回して、こんなことを言った。
「そうではなくて、雰囲気かしら。なんだか冷たいというか人の気がない感じがする。」
「そりゃまあ一人暮らしですからね。この家に一人だといろいろ持て余してしまいますよ。」
この家は一般家庭の住むような普通の一戸建てだ。つまり、一人で暮らすには部屋数が多い。事実一人暮らしをしている私は自分の部屋と、キッチン、ダイニング、風呂にトイレと、そのくらいしか使っていないし、他の部屋は初日以来一切入っていない。
なんとなく、そのままにしておきたかったのか、それとも単に興味がなかったのか、自分の行動を顧みることもしていなかった。
「え、月山君一人暮らしだったの?初めて聞いたわそんなこと。この家に一人暮らし…。ああ、そうだったわね、ごめんなさい無神経なことを言ってしまったわ。」
「いえいえ、別に悲しいことはありませんから。それにその感想、私が初めてこの家に来た時も思いました。」
この家には個性を体現するものが何一つない。それは私が思った感想だ。果てして先輩は何を思うのだろうか。
「とりあえずいろいろ探してみましょう。お宝も見つかるかもしれないし。」
先輩は私の部屋以外の部屋を、私は私の部屋を探した。しかし私の部屋には何もなかった。本当にこの家には何もない。早々に自室での捜索を終えて、先輩はどうやらスーツの多い部屋を探しているようだった。
「先輩、何か見つかりましたか?」
「いいえ、あなたの言っていた通り何もない。何もないのよ、この家には。」
先輩の声には少しの怒りと多くの不思議がこもっている気がした。
「こんなにも何もないものかしら、この家本当にあなたの家なの?」
「そのはずです。もらった鍵もこの家のものですし、学校や登録された住所もこの家で間違いありません。」
それに、さすがに知らない人間の家を使い続けていたら近所の住人や家主が気づかないはずがないだろう。
「まあそれはそうよね。それはそうだと思うのだけれど、あなたのお父様やお母様は何をしていたのって、聞いてもしょうがなかったわね。でもおかしいわ。これじゃ、あなたのお父さんニートですらないわよ。」
ニートですらないとはどういうことだろうか。ニートなら引きこもっていた痕跡があるだとか、同じ匂いを嗅ぎ取れるだとかそういうことなのだろうか。
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