第21話
「そう、あなたは男じゃないのね。そう、残念だわ月山君。本当に残念、残念だから残念賞として、やっぱり愛好会に入会しなさい。」
いやなんでそうなるんだ。これで私はお役御免だろうに。
「いやだって先輩、もう私に興味ないんじゃないですか。先輩の探してる超能力者でも、土中さんみたいに巫女さんってわけでもないし。」
「そうね、確かにあなたは男ではなかった。でも次の男を探すためには、愛好会として活動していく必要があるの。あなたをこうして、ここに行使できたようにね。そして愛好会を続けるためには会員が必要。別にあなたにとっても悪い話じゃないでしょう。」
一年生は部活動強制入部。この原則が覆らない以上何らかの部活には加入しなくてはならない。
それに運動部をやっていた記憶はない。スポーツが得意である保証もない。趣味といえるものもない。
それに名前を貸すだけならば何の問題もないだろう。先輩の私に対する興味もなくなったはずだ、きっとこれ以上関わることはない。しかし、そうも簡単に部活動を決めてしまってよいものだろうか。ここにいる理由も資格もないというのに。
「そうだ、部員が足りないなら金下さんに入部してもらえば良いのではないですか?」
「それは願ってもないことよ、でも他校の生徒を部員にすることはさすがにできないわ。」
てっきり金下さんもうちの学校の生徒だと思っていたが、そんなことは無かったらしい。それにそうであれば、この先輩であればどんなパンツを使ってでも金下さんを会員にしたに違いない。
「それにね月山君。あなたはこの愛好会に加入する権利が、義務が、資格があるのよ。」
この先輩が言っていることは時々本当にわからない。これは本心なのか、それとも口車に乗せようとしているのか。普段顔色一つ変えない先輩からは嘘か誠か読み取れたものじゃない。
「資格って何ですか、シカクにあったものを手に入れたってことですか。」
「まあある意味シカクを手に入れたことに、というかシカクにあったともいうことはできるかしら。でも今はそんなことを言っているのではないの。真面目に誘いを受けなさい。誘う受けになりなさい。」
なぜ途中まで本当に真面目だったのに、最後にボケるかなこの人。まあ人はだれしも最後にはボケるものか。
「そういうものは自分で考えるものよ。あなたは自分の持つ謎を探求するべきだわ。」
ここまで先輩にお膳立てされなくも言いたいことはわかる。自分の持つ謎なんて一つだけだ。私は何者なのか。過去の私は今の私は何者なのか。私は自分のことを知らなすぎる。
あまりにも無知である。そして無知であることに言い訳をする。自分が弱い存在であることに言い訳している。そしてそれを正当化している。
やりたくないこと、決めたくないことをいつまでも先延ばしにして、言い訳して。やめたいと願っても願うだけだ。願うだけで夢が叶うのならば、どれだけの人が救われることだろう。しかし、現実この世界は願うだけで夢を叶えることは、ましてや現実を見据えることすら叶わない。
私は私のことを知りたいと思っている。今の私も過去の私も。だから願うだけではなく、努めて力を尽くさなければならない。高校生活は私にとって執行猶予のようなものだ。
これから先一人で生きていく、その理由を、その意味を知るための得るための執行猶予。というかそれを得る努力をしないための執行猶予。これだけ考えさせられて、これだけ手を差し出されて、無下にできるほど性根を腐っていないと、失っていないと信じたい。
「それにさ月山君。琥珀、別にそこまで考えこまなくてもいいと思うよ。だって結局はただの愛好会活動なんだし、楽しくできればそれに越したことないと思うんだけど。」
せっかく考えこんだ結論を出そうと、決意を出そうと思ったのに、必要ないといわれてしまった。けれどそのおかげで、言葉にするのが楽になった。
「分かりました。先輩、土中さん、私を愛好会に入れてください。」
「いいでしょう月山君。あなたの入会を許可するわ。では聞きましょう、あなたの求める真理は何かしら?」
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