第20話

おもむろに古い絵巻を取り出す金下さん。よくもまあこんな文字読めるものだなと思った。




「この世界は森羅万象を構成する物質と、それらすべてに備わっている精神で構成されている。そして世界は男と女、陰と陽の思いがまじりあうことで生まれた。




 男は物質を生み、女は精神を生む。しかし男は多くの思いを使い果たした。そのため男はすでに女を覚えていないなだろう。女はそれを嘆き、自らの思いを使うことで生ける人々の中に精神を生んだ。




 もしも再び男と女が交わり、この世界の終わりを願うのならば全ての人の思いを集め、満たさなければならない。そしてこの世界が終わるとき、新たな世界が目覚めるのだろう。」




「っていうのがこの神代神社に伝わる言い伝えなんだけど、どう?」




 どう、と言われてどう答えればいいのか。こんな話は聞いたこともないし、自分になんら関係があるとも思えない。いわゆるこれは建国神話の一種だろうか。




 しかし日本神話はもっと伊邪那美だとか伊邪那岐だとかそんなのが登場して、神様だとか国だとかを生み出すような、そんな物語ではなかっただろうか。それがこの神社では男と女という呼び方に変わっただけ、そんなところなのだろうか。




「いや、自分にはとても関係があるとは思えないのですが。」


「えっ、嘘その無気力な性格、無気力な顔、記憶まで無いというのに。あなた男じゃないの?」




「いや男ですけど。この話の男なわけないでしょう。だってこれ幻とかの言い伝えでしょ。しかも何ですかそのわけわからん解釈、そんな理由で、私のこと男だと思ってたんですか。」




「えっ、そうなんですか会長。それは違いますよ、だって月山君昔は本ばっか読んでて琥珀のこと全然かまってくれなかったけど、読んでた本全部えっち本だったんですよ。それで思うことがほとんどないわけないじゃないですか。ないわけない、無いわけないよね?」




「そこ、自信なくさないでくれ。昔なんで構ってあげなかったのか知らんけど謝るから許してくれ。これから一杯構ってやるから。」




「それは勘弁して。ただでさえとんでもない変態がいるのに、これ以上看病できないから。」




土中さんって意外と毒を吐くことが多くはないだろうか。しかもエッチ本じゃないし、性教育の教科書だし。




「というかそれで、なんで金下さんは私があなたのことを知っていると思ったの?金下さんが女の人?」


「ちゃんと生物学的にも精神的にも由緒正しい女の子です。あ、あと言い伝えの女でもありますね。」




いや意味が分からない。ていうかそれはどうやって分かったものなんだ?ていうかその言い伝ってだってそれ、えぇ?




「あ、えっとですね。この神社の世襲でなる巫女は代々その女を名乗ってるんです。だからどこにも証拠なんてないですよ。」




 すぐに納得がいく答えをくれてありがたい。それでまあ形式上聞いてみたってところだろうか。私がこの愛好会にしつこく誘われた理由も、先輩がこの神社の人たちとかかわりを持った理由も、土中さんがこの神社で巫女さんをやっている理由も、全て納得がいくものだ。




そして私が男でないことを知って、次に言われることは一つだろう。


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