第18話
「先輩、なんかこの鳥居の奥からものすごい地鳴り聞こえてくるんですけど、もしかしてこれ土砂崩れじゃないですか?!先輩早く逃げましょう!危険です!」
「大丈夫、いつものことよ。」
そういうと先輩はおもむろに力士のようなしこふみをはじめ、両手を広げて、またを広げて。次の瞬間、先輩に土砂崩れが直撃した。といっても私には砂ぼこりで何があったのかわからなかったのだけど。
「ちょっと、先輩大丈夫ですか、もしかしてもしかしなくても死にましたか?よっしゃ!これで失われた青春、ブルースプリングを取り戻せる!」
「何を言っているのかしら月山君。私は不死鳥、フェニックスなのよ。朽ち果てることのない萌える乙女、それが火上萌なのよ。」
久しぶりに先輩の名前を聞いて、やっぱり萌はないよなと再認識した。土砂崩れを受け止めた先輩の胸には、どこか見覚えのある少女が泥だらけで抱かれていた。
「ん、あれ土中さん?こんなところで何してるの?」
「すみません、すみません。琥珀はこの神社で巫女をやっているもので、決して参拝者様に突撃するつもりなんてなくて、ただ珍しく人が来てくれたものですから、ご案内しようと坂を駆け下りたら止まらなくって、すみません、すみません。」
「はいはい大丈夫いつものことよ琥珀ちゃん。いつもご苦労様ね。」
「あれ、なーんだ会長じゃないですか。てっきり珍獣、というか魔物のような気配がしたものですから。これはいよいよ事かなと思いましてって、月山君!?こんなところで何してんの?」
あたりを見回しても珍獣や魔物は存在しなかった。きっとスピリチュアルパワーとかで何か感じ取っていたのだろう。どうやら突撃してきた人物は土中さんで間違いなかったらしい。
しかしこれで先輩が土中さんの入部とバイトを許した理由がわかった気がした。
「琥珀ちゃんはこの神代神社で巫女さんをやっているの。私が最初に琥珀ちゃんと会ったのもこの神社だったのよ。」
「そうなんです、何かとてつもない狂気をはらんだ気配がしたも者ですから偵察に行こうと思って突撃してしまったのが始まりでしたね。」
「なんで先輩はこの神社に来たんですか。」
「そんなものは決まっているわ。神社あるところに同胞ありと、相場は決まっているもの。学校周辺の神社を散策していたの。」
そういって先輩は手帳のようなものを私に差し出す。見ると何を書いてあるのか分からなかったが、朱印らしきものが1ページごとにびっしりと埋まっていた。
「んで、校外学習ってのは神社とかパワースポットの散策ってことなんですね。」
「いいえ違うのよ月山君。全然わかっていないわ。これは遠征なのよ遠征。決して趣味でやっていた事を愛好会活動の実績として対面を保っていたわけじゃないんからね!!」
訳のわからないことをいう先輩はさておき、
「そういえば土中さんは巫女さんなんだよね。この神社のおうちの人ってこと?」
「ううん、別にそういうわけじゃないの。昔から地域のお祭りごととかに参加してて、神社の人とも仲良くなって、それでよかったらバイトしない?大丈夫大丈夫ただ立ってるだけでいいから、ちょっと人とお話しするだけでいいから、ほんと簡単簡単って感じで誘われちゃったの。」
怪しいバイトの香りがした。しかしまあ本当にお人よしというかなんというか、こんなところまでバイトしに来るなんて大変だなと。少し土中さんの顔が赤い気もしたが気のせいだろうか。
「んで先輩、今日は神社で参拝して終わりですか?合わせたい人っていうのは土中さんのことだったんですね。」
「いいえ違うわ。ここの巫女さんであることに違いはないのだけれど。」
山を登ってしばらくすると鳥居が見えてきた。しかしまあやはりこの神社に見覚えはない。私が初めて会った巫女さんは、土中さんで間違いないし、他に巫女さんの知り合いもいない。
ということは私のことを知っている誰かなのだろうか。また私の知らない誰かに会うと、土中さんに会った時のことを思い出す。申し訳ない気持ちで鳥居をくぐり、土中さんと先輩が社務所の方へ駆けていった。
特に目立つところもない普通の神社だ。住宅街にあるような小さい神社ではなく少しそれなりに大きめの神社だと思ったが、やはり見覚えはなかった。お社に向かって参拝しようとする。中に人影が見えた。
見えたと思ったらまた見えなくなった。見えなくなったと思ったら、今度は背後から声がした。
「もし、あなたは誰ですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます