第15話

「はーいそこまで終了。体験版はここまで終了です。ここからは本編発売をお待ちください!」




「え何その超極秘ってページ、超気になる。まさかここから先は土中さん本人の…。」




「ちーがーうーのー!まあある意味では間違ってないけど間違ってる。その顔は乙女に向けていい顔じゃない。琥珀、正式にバージンロード歩ける自信あるよ。」




 その超極秘ページ以降の厚みが、濃厚な官能小説レポートよりももっと濃厚だったから、きっと土中さんとその好きな人とはうまくいっているんのだろう。しかしこれで今まで勘違いをちょっとでもしていた自分を否定できる。勘違いを回避できた嬉しさと悲しさを味わいながら三度目、部室の扉を開けた。




「ふふっ。しっかりと青春してきたようね2人とも。ちゃんと帰ってきてくれてよかったわ。」


「あーもうそういうのいいです。とりあえず先輩。先輩はこの世界に何を求めるか教えてください。」




「え、ちょっとなに恥ずかしいことを言っているの?何世界に何を求めるかって。超恥ずかしいわ、超愛好会だけに!」




何もかかってないし、盛大に投げたブーメランを回収する気も起きない。




「ま、さっきの恥ずかしい発言に寛大な私は答えてあげましょう。私の求めること…それは超能力者の実在証明よ。超愛好会だけに!」




なんともオトメチックな至って普通な回答だった。どうやら私の普通もこの変態ウイルスによって侵されてしまったらしい。




「んで先輩のレポート、見してもらえませんか?」


「レポートじゃない、これは禁書目録よ。時代が時代なら私たちは魔女扱い。ふふふっ。素敵じゃないかしら、私たち魔女になれたのよ。」




まあ異端者という扱いなら今の時代でも魔女なのだろうなと。そして先輩は嬉しそうに私に鍵を差し出してきた。






「その鍵はあなたと私が出会った場所、すなわち約束された大地を開く鍵なのよ。きっとそこにあなたの求めるものがあるでしょう。」




約束された大地は犯行現場ともいう。私たち3人は隣の倉庫に向かった。鍵を開け、電気をつけてみる。先輩のレポートを探す、探す、探してみるが、どれも本ばかりでそれらしいものは見当たらない。




「どこを見ているのかしら、あなたの探しているものはすべて目の前にあるじゃない。」




 先輩が指をさしたそこに並んでいたのは大量のクリアファイルが並んだ本棚だった。


 一段15冊が計5段!?そのうちの一冊を取り出して、本物かどうか確認してみた。ギリシャ神話に旧約聖書、陰陽五行説から歴史地理まで、一見超常現象とは無関係のようなものまでまとめてある。


 どれもこれもコピペで作られているわけではない。




「どうかしら、これで私が生徒会だの成績だの何だの、権力を行使してこの愛好会を作ったわけじゃないこと、分かってもらえた?」




「正直言葉も出ないくらい驚いてます。先輩頭おかしいのにすごいです。いや頭おかしいからすごいです。」




褒めてるのか貶しているのかはっきりしなさい。そんな言葉が聞こえたような聞こえなかったような気がした。この時思ったことは、この人が本当に本物だと思ったこと。そして同時に自分を醜く思ったことだ。




「いや本当にすごいです。でもこれなら超能力者の実在確かめられたんじゃないですか。」




先輩は少し呆れた顔を自分に向けて




「そんなことなら私、今苦労してないの。だから、だからこそあなたが必要なのよ。あなた事故にあった衝撃で、何か特殊な能力とか、見たことないものが見えるようになったりとか、変な声とか、ノイズとか、そういう超能力使えるようになったかしら。」




 全くそんな気はしない。そんな気はしないけれど先輩が今苦労していた理由も、この愛好会にお祭り男を入れなかった理由もわかった気はした。きっとこの先輩はどこまでもまっすぐに本物なのだろう、だから本物でないものはここには必要としない、私が本物でなければ同じこと。




 可能性があれば何でもやる。そうやってきっと、ここまでいい人間になった。私がこの先輩に感じることは、残念ながらいい人間だと思うことばかりだった。同時に私は何者なのか、そんなことばかり考えさせられる。考えさせられて行きつく所は自己嫌悪ばかり、自己もないのに自己嫌悪するだなんて、私にはどこまで行っても救いようがないと実感した。


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