第13話
この時間の放課後は、学校の様子が活発である。もしも私が私だったのなら、彼らと同じように部活動で汗を流したり、友達と遊びに行ったり、放課後に教室とか、屋上とかに呼び出されたりしたものだろうか。
きっと今呼び出しがないのは、この学校の屋上が生徒立ち入り禁止だからに違いないのだ。それにしても土中さん、中学校まで一緒で家も近くだったとは、いったい私たちはどういった関係だったのだろうか。それともう一つ、私は男の娘だったのだろうか。
いや、マジでないキモすぎる本当ない、ありえない。そんなもん嫌われるというか避けられるに決まってんだろ何考えてたんだろう私は。そうだ、今と同じ気持ちを先輩に味合わせるためにそのうち録画しといてやろう、もとはといえばこのような事実、あの先輩が私を拉致しなければわからなかった、いや無かった話だ。
やはりあの先輩が諸悪の根源まさに悪魔。あ、だから闇の眷属なのか…。そんなくだらないことを考えている余裕はない。早くしないと本当に学校生活が終わる。早く土中さんを探さないと、にしてもどこを探したものだろうか。
とりあえず1年生の教室に…、は行きたくないので外から観察しよう。一年生の教室は幸い1階だ。外を歩きながら教室の中を確認しているとき、
「ねえ月山君。何…してるの?まさか盗…撮!?」
振り向くとそこにはまた逃げ出しそうな土中さんがいた。
「いや、違うんだ。私は土中さんを探していたんだ!」
「え…、しかも琥珀を狙ってたの!?変態だ、会長とおんなじ変態だ!」
「いや違う、あの先輩と一緒にだけはしないでくれ。頼む!話を聞いてくれ。」
「だって、会長も「我が同胞」とか、「闇の眷属」とか、変なこと言ってたし、それって月山君もおんなじ変態ってことじゃん!もういつからそんな変態になったの?もしかしていつも読んでた本とか図鑑とかって全部エッチ本だったの?うわーん、もうどうしようもないよ変態だよ。」
「大丈夫、本はともかくとして人体図鑑の方は小学生男子でみんな卒業するから、あれは紳士になるためのバイブルだから、何も問題ないよ。ていうかヤバイ、ここでそんな変態変態言わないでくれ、大変な変態になってしまうだろ。」
私は強引に土中さんの手をつかんで、人目の少ない校舎裏まで逃げ込んだ。
「ちょ、ちょっと離して月山君。ごめんわかったから、月山君が変態でも、琥珀の中の月山君は変態に変態していったりしないから、いつまでも河のように清らかで、一皮むけたりなんかしないよ!」
悲しいことにきれいな河のままだったら病気になったりするんだろうなと。いやそんなことはどうでもいい。
「とりあえずさっきはすまなかった。すまないが私の話を聞いてくれ。真面目な話、私はもう私じゃない。」
そうして、私は私の知る限りの私について話した。土中さんは私の話を聞いて、大層驚いていたけれど、同時に納得しているような顔もしていた。
「そっか、だから先生の説明が変だったんだ。だって何聞いても家庭の事情で、としか答えてくれないんだもん。でも納得したよ、確かにこれは簡単に話せるようなことじゃないね。」
「それと、すまない。私は土中さんのこと覚えてないんだ。本当にごめんなさい。」
「いいよいいよ、別に全然月山君が謝ることじゃないし、そっかそっか、はあ残念。月山君、琥珀としたあんなことやそんなことも忘れちゃったのか。」
「ぜひその点に絞って、ついでに絞って教えていただきたい。」
「やっぱ変態。おかしい、その事故の衝撃とかで頭おかしくなちゃった?もう一回病事故った方がいんじゃない?」
「っまあともかくすまない。そういうわけだから部活とかは先生に相談して、無しにしてもらう。」
「おお、これだけのことをしておいて職員室に行けるとは、まさに勇者だね。でもそういうことならさ、あの愛好会なら大丈夫じゃないかな。」
「いや土中さんおかしいよ。あの変態と一緒にいたら変態が移るよ、変態ってウイルス性の病気らしいから、土中さんも感染するよ。」
「いや大丈夫でしょ、月山君もう感染してるし。それに真面目な話、その担任の先生って、月山君の事情分かってるんだよね。でも部活動は強制入部。これって、先生は月山君になんでもいいから部活動をやらせたい、ってことだよね。どうしてだろう。」
確かにあの先生は私に体験入部を勧めてきたりしたが、あと私のことを変態に話してもいた。
「わかったぞ、あの先生と変態たぶんグルだ。先生は問題生徒に配慮して部活免除にする必要もない。先輩は部員を集めて愛好会をやっていくことができる。辻褄があう。さすがいい人だ。」
「そんなんじゃないよきっと。だって、愛好会を開くためだけだったら、間違いなく入部を断ってたりしなかったはず。会長の愛好会、最初1年生のほとんどの男子が体験入部行ったって言われてるんだよ。ならわざわざ月山君を入れる必要もない。違うかな?」
「それ、あの先輩の闇属性に誰もついてけなかっただけじゃないか。ま確かにあのルックスなら男子は集まるだろうけど。でも案外あの先輩計画性もなさそうだし、お祭り男を断り続けたらいつの間にか誰も来なくなっちゃったとか、そんなとこじゃないのか。」
「ネガティブだなーもう。ま少なくとも会長の闇属性に対抗来てたのは月山君くらいだと思うけど。まあともかくさ、ほら噂のこともあるし、これはもう、やっぱり入会するしかないと思うよ!」
この子もこの子、噂を知っておいてよくあの部室に、というか私の前にこれたものだと。まあこの子はあの愛好会に入会してるわけだし、会員が足りなければ背に腹は代えられなくなるものか。
「そんなに会員が必要ならほかのお祭り男を…。ああそうか、もう私しか入部していない一年生っていないのか。あの先輩と土中さんが私を愛好会に入会させたい理由はわかったよ。」
「もう!全然わかってない。その顔、その琥珀の嫌いな顔、それだけは変わってないよ。せっかく口調も変わったのに、また戻っちゃうの?それに、私は全然超常現象とか興味ないし、闇属性でもないよ。」
「じゃあどうして土中さんはあの愛好会に入会した、というか入会できたの?。」
土中さんは少し考えてニヤリと笑い、私を見つめた。
「じゃあ月山君が納得するように言うと、建前は先輩が困ってたから。本音はなんか楽そうだし、それに調べたいこととか、アルバイトとかもしたかったから。だから愛好会がなくなるのは困る。お願いします。私たちのために、あなたのことを利用させてください。」
この子は私に対しても自慢の建前で接してくれているんだろう。だからこのことに関しても辻褄が合う。そうであればこの子の言ってることも、先輩の言っていることも、先生の言っていることも納得がいってしまう。この子は先輩よりもいい人間をしているなと。
「土中さんもやっぱり先輩に似ていやらしいよ。そうか大丈夫ってそういうことか。確かにそれなら大丈夫だね。」
この子が私を立ててくれたから、前と違う私は本音を言うことができる。
「確かに私にとっても部活動は入部しなければならないものだと思ってる。でもなんか悔しいし、恥ずかしい。」
「何それ、面白い。というか月山君がそんなこと言うの初めて聞いたよ。」
今私は生まれて初めて人の温かさに触れたような気がした。それが恥ずかしかった。そんなことを思う私が恥ずかしかった。それと同時に何もかもを強いてくれている先輩や、先生、ひいては土中さんに申し訳なさと、悔しさを感じた。
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