第2話 居場所って?

私は将来の夢とか大人になったらコレがしたいとかの目標がなかった。いや、多分見つけようとしてないだけで多分何処かに私が求めるものがあると日々を過ごしていた。学校でトラブルやらなんやらを避けながら生きてはいるのだが、人間は誰しも一人は行きたくない場所が必ず存在する。


つまりは求めてない場所だ。


職員室の雰囲気、高校生にとっては嫌な場所だろう、あの緊張感や、独特の匂いが私は嫌いだ。悪い事をしていないのに悪い事をしているような気分が常に体にまとわりついてくる。


「理子さん」

少し明るめの声色が背後から聞こえる。

「先生が後で生徒分のプリント取りに来いっていってたよ」

「何で私なのよ」

「だってプリント係じゃん」

そうだった、私は面倒を避けるために自ら面倒に突っ込んで行く係についていたのだ。


私は自分が決めた事に毎度後悔している、多分これからずっと先もそうだろう、そんな予感がした。


職員室でたらふく不気味な空気を吸うと、授業のチャイムが鳴り響き、その音が耳に入ると共に周りの生徒達はバタバタと自分達の教室に戻って行き、それに合わせて私も小走りで教室に向かう。


私語が少なく紙をめくる音や教師の独特な喋り方で、頭に鉄塊でも載せられたかのように首がガクガクと意識とは反して動き出す。

高校生はなるべく体力があるはずなのだが、寝る子は育つと言わんばかりに体が睡眠しようといろんな情報をシャットアウトし始めた。


ふと、隣の樹に視線を移す。


彼女は凛とした姿勢でペンを持ち、教科書を開いている。

そういえば、彼女は午前中の授業はほぼ寝ている印象しかない。つまりは彼女は午後に睡魔を持ち越さない。

ある意味賢いやり方だ。無論、彼女はそんなことを考えてやってるわけではないだろうが。


その後、地獄のような睡魔に耐えながらなんとか授業を終えると、放課後を迎え、私は部活に向かう事にした。


学校は何かと息苦しい場所が多い、職員室にしろ教室にしろ、全く関わらない他人がいる中ではかなり気を使った生活を強いられる。里美や、その他諸々の友人達が周りにいればそれでいいと思いながら生活している私からしたら、周りには余り迷惑をかけたくはない気持ちがあった。


だが、学校の中でも心地よく過ごせる居場所はたくさんある。

それが自分の所属する文芸部の部室だ。考え方とかその他諸々を考えるには非常に良い場所としても機能している。


部室の戸を開けると、中で先輩がノートパソコンに向かって何かを打ち込んでいた。

「お疲れ様です」

「うん」

「いま来てるの先輩だけですか?」

「うん」

いくらなんでも愛想が無さすぎやしないだろうか、でも物語を書き始めると没頭するタイプは私も同じだ、パソコンで物を書いたりすると、あっという間に数時間経っていたりする。

私は今書いている物語を入れたUSBを所々茶色い古びたパソコンに指した。

だが、電源のスイッチを押してもパソコンは黙り込んだまま、黒い画面のまま私の顔を反射させていた。

すると、先輩がハッと気づいたようにこちらを見る。


「理子さん、悪いけど今そのパソコン壊れてるから、今使えるパソコンはもうないよ」

「昨日まで動いてませんでした?」

「水木先輩が多分壊した」

私はまたですか、と呟きながら溜息をつく。

「あとちょっとである程度書き終わるから、私のノートパソコン使ってもいいけど?」

「いや、大丈夫です」

「ごめんね、なんか」

「先輩は悪くないから謝らなくても」

一瞬微妙な空気が流れた後、私は目をそらすかのようにスマートフォンの電源を入れた。


電源がつくなり、数件のチャットがきており、姉からだった。

『ご飯食べに行こうよ、私暇だし』

『まだ学校なら迎えにいくよ』とほぼ行く事が確定しているようなメッセージだった。とりあえず私は部室を出ると、学校の門の近くへと向かう。


門の近くでしばらく待つと見慣れた白い車がやってきた。

助手席に誰かが乗っているが、暗くてよく見えなかったが、窓から手だけを出して振っていたので、すぐに樹とわかった。

「樹ちゃんに聞いたら来るって言ってたから、連れてきた」

「親御さんには聞いたの?」

「いいですよ〜って言ってた」

ああ、そうと会話を交わし、車に乗り込む。

「ごめんね、うちの姉が、急にきたでしょ?」

「ううん、私も暇だったし、親が風邪引いててね」

「そうなんだ」

そう言うと、私は窓の外へ目をやる。

街灯の明かりや信号機の明かりがどことなく新しい物に見え、心の何処かで感心し始める。だんだんと目が乾いてくるような感覚を覚え始め、私はゆっくりと瞼を閉じた。


肩をポンポンと叩かれ、目を覚ます。

「理子ちゃん寝るの早いよ、まだ食べてないのに」

「ごめんめっちゃ眠くて」

「行こう、早く」

樹は私の手を握り、引っ張り上げた。後ろで姉がそれを見て笑っている。

「笑うとこある?」

「いや、仲がいいなって思って」

「だってよ?」

私はちらりと樹を見ると、いつもの柔らかい笑みを浮かべて、握ったままの手にギュッともう一度力を込めた。


まぁいいやと思いながら、私はゆっくりと夕日のような光を放つレストランに向けて歩き始めた。

私達はその後食事を終え、樹を家まで送り届けた。

樹は去り際にまたどっか行きたいねと言い、私達が見えなくなるまで手を振っていた。彼女らしいといえば彼女らしいと感じる。


帰りの車内で姉は運転しながら、こちらに手を伸ばして頭を撫でてくる。

「ちゃんと前見なよ、危ないよ」

「あんたもちゃんとする歳になったんだね」

「そりゃ高校生だし」

「樹ちゃんはやっぱあの子はモテるね、言葉使いも丁寧だし、可愛いし」

「そうだね」

「一緒にいたら安心感があるよねあの子は」

「私もそう思うよ」


心地いい場所は未だに学校では見つからないが、友人だったりの周りではなんともいえない気分になる、多幸感のようなそれに近い感覚だ。

居心地は場所に定義されやすい言葉だが、人と一緒にいる事もそれに入るのではないだろうか?


「コンビニでアイス買おうよ」

「いいね、買おうか」


姉がその言葉を待ってたかのように即答すると、街灯の大きな道へハンドルを切った。






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