文学ってなんぞや??
ミタカミシロ
第1話 恋愛の見方って?
私は文学的に生きようと考えていた。
そこまで思いつめたり、ましてや病んだ文豪などに憧れた訳ではない。
『知的に生きる』という目標が高校生の私の中にポッと浮かび上がってきたものだから、賢さや勤勉さが見える物はなんだろうかと、安直な考えだが先人の知恵を借りるようなつもりで「文学」を選んだ。
私はまず友人等をよく見ることにした。
プリーツが均一になっているスカートや、汗でこめかみ辺りに張り付いている髪の毛などといった多少なりフェティシズムを感じるような見方をしていたが、やたら変態的に物を見ることによって一種の悟りに達するのではないかと、これも安直だが考えの一つにしていた。
心意気は大切だし、綺麗な言葉で精神世界を表現する行為にはある種の興奮をおぼえていた為かどうかはよく分かりはしないが、文学といったものを感じ取るには必要な感性じゃないのかと思い、実行して今に至る。
夏の課外授業が行われている教室はむさ苦しいほどの暑さで、教室の物理的な熱気は高まっている。
隣の席の女子がこの暑さの中、うつらうつらしているのに私は気づいた。
ポカポカはするだろうが、窓際の直射日光を食らっている中で居眠りをするのはあまりにも無理があろう。
私は小声で話しかける。
「ちょっと、
すると彼女は文字がグチャグチャになったノートをめくりながら呟く。
「だって眠いんだもの」
「昨日テレビでも見たの?」
「考え方が古いね、スマホじゃんいまは」
彼女は時折こういった正論をかましてくるので、文学的な生き方をしようとしている私には少しばかりイラっとする。
だが、こういった受け答えは『青春』という定義に当てはまるのだろうか?
そんなどうでもいい事を考えたりしながら私達の会話は進む。
うつらうつらするたびにリズム良く揺れる樹の髪は手入れされてるのもあるが、艶やかで何処と無く色っぽく見えたりもした。
そして授業は終わり、教室内の騒ぎ声のボリュームがどんどん上がっていく。それと一緒に私も樹との会話を続ける。
机に髪を大樹の根のように張り巡らしながら机に突っ伏し、くぐもった声で私と会話する。
「樹ちゃんって、いつも睡眠不足かって思うくらいよく寝るじゃん」
「寝る子は育つからね、こないだ2cmも身長が伸びたんだよ、理子ちゃんも寝たら?」
喋るたびに樹の頭がガクガクと動く、喋りにくいはずだが、彼女は会話と睡眠を両立しようとしていた。
「それは睡眠関係あるのかな」
「あるよ、ゴールデンタイムだよゴールデンタイム」
樹は簡単にゴールデンタイム等と会話に混ぜ込んでいるが、長年の私の経験からして、憶測の範疇だが、言葉の意味をわかっていない可能性が高い。
この間も私の弁当を見るなり、『口車に乗せられるね』と、意味不明にも程がある慣用句の使用に驚かされたりした。彼女に真意を聞くと美味しそうな物を指す言葉だと勘違いしていたらしい。彼女の事だからきっと今も意味は調べてないだろう。
大人びてるようで、まだ大人びてないような身体の内外の矛盾のようなもどかしさが私は好きで、会話の中で意地悪な質問も時折出して見たりもしたが、案の定彼女は『わからないよ』と、言い、いつも私の手の甲を人差し指でツンと強めに突いてきたりした。
会話が続き、途切れ、続き。不規則なリズムで私達二人の下校の時刻にまで会話がなだれ込む。
もう生活の一部に近かった、無論会話は日常生活において必要不可欠だが、彼女との会話はまた別だった、特別な感情だったりある種の恋愛感情などといったものではなく、ただ彼女と会話するのがただただ心地よかった。
いつも話すときには身体の中に長い芋虫が張っているような感覚で、表現的には不快に感じるかもしれないが何処と無く心地よい感覚だった。
柔らかい毛布を握っているような、そんな安らぎのような気持ちになる。
帰り道、坂道を下りながら道路のアスファルトやコンクリートの壁やらに視線を向けながら、自宅を目指す。
樹とは私と家の方面が同じなので、いつも一緒に帰っていた。
坂道をいつもうろついている野良猫を見つけては撫でるといったサイクルで帰路につく。
「猫かわいいよね」
「うん」
樹は胸元に抱いた猫の頭を撫でる。私も歩きながら猫の頭を撫でた。
「猫っていつもなに考えてんだろね」
「餌とか寝ること辺りじゃないかな」
「自由でいいね、この子らは」
そう言うと、樹は猫を地面へと降ろした。
猫は地面に降りるなり、何食わぬ顔で道路のの脇へと入っていく。
「理子ちゃんって、恋人とかいたことあるの?」
「いたことないね、好きな人ぐらいはいたけど、その人に彼女いるの知らなくてね」
「へぇ、意外だねぇ」
「樹は?どうなのよ」
すると彼女はカバンから一枚の紙を取り出して、私に渡す。
そこには樹宛てに想いを伝えている文章がぎっしりと書かれている。
ちょっと怖いくらいに
「ラブレターじゃんこれ!」
「だけどね、名前が書かれてないんだよね、これ、会う場所とかも書いてないし」
そう言われて紙をしっかりと見ると、確かに熱い想いを伝えている割には名前や場所などが一切書かれておらず、誰が書いたものかわからなくなっていた。
「ちょっと気味悪いな、でも素敵な事じゃないの?」
「うん、でも、モヤモヤするよね」
「確かにね」
グダグダと話していると、ちょうど里美と別れる道の近くに差し掛かった。
「じゃあね、何か進展あったら教えてよね、私も気になるし」
「わかった!また明日」
「明日は休みだよ」
樹は軽く手を振り、紙を見ながらゆっくりと道を進んで行く。
家に着くなり、ベッドの上で制服のまま寝そべる。
ついに里美にも青春の醍醐味の『恋愛』が訪れたのだ、何だか追いていかれたようで悲しいような悔しいような気がして、なんとも言えない気持ちになった。
その日の夜、私はいつもの日課のスマホいじりもせずにベッドの毛布を丸め、それを抱きしめる。
彼氏ができればこんな事をするのだろうか、待ち合わせしたり、夜にこっそりあったりするのだろうか。それに続いてあんなことや.....と考えたりしたのだが、幾ら何でも急にそこまでは行かないだろうし、友人の乱れる様な姿を一瞬でも考えた私は最低だと思った。
その日は毛布と添い寝したまま、夜を明かした。
朝、眼が覚めると、椅子に姉が座っているのが目に入る。
「おはよう」
「なんで私の部屋にいるの」
「気まぐれかな」
姉はいつもこんな感じで勝手に私の部屋に入ったりしてくるのが当たり前だ。
姉は私のベッドに腰掛けて私の頭を触り始める。
「あんた、なんかあったでしょ最近」
「なんもないよ」
「毛布抱きしめて寝るなんて、絶対何かあったに決まってる」
姉は私をいつも可愛がってくれた、熱を出した時や悲しくなって泣いたりしてる時には常にそばにいてくれて、手を握ったり膝枕をしてくれる、私にとっては心の拠り所でもあった。
「樹がね、ラブレターもらったって」
「へぇ、あの子結構かわいいもんね、天然だし、言葉使いも柔らかい感じだから、いつかはって感じだったけどついにか」
「なんか寂しいような気がしちゃって」
「寂しいのか」
すると、姉は私のベッドに入り込んできた。
何故かいつもより距離が近い、いつも見ている顔なのに少しばかりドキドキする自分がいる。
「かわいいね、理子は」
「どうしたの急に、何か変だよ、いつもと違う感じなんだけど」
「何、私が変に見える?」
そう言うと、姉は私の耳を触り始めた。
何か、いつもと手つきが明らかに違う、艶めかしいというか何というか、耳の端をゆっくりとなぞってくる感じだ。
「耳の形綺麗だよね、月みたいに丸くなってるよね」
私も姉の頬を触る、何故かこのままだと負けているような気分になってきて、私も姉を真似るようにすればいいと、ぎこちないが姉の頬をさすった。
だが、私のよくわからない抵抗も虚しく、姉はどんどん顔を近づけてきて、額と額がぶつかるまで寄せてくる。
「ねぇ、私の事、好き?」
「やっぱなんか変だよ、本当に変だよ」
「こういうのが恋愛なんだよ多分」
姉は唖然としている私をみてクスリと笑いながら、ベッドから出た。
「朝ごはんできてるから食べなよ」
「うん」
その日は少しばかり姉に腹が立った。
恋愛は歴史の中で最も頻出し、そしてトラブルやら人間関係を生み出す。つまりは人として必要で生き方だったりを他人と共有して.....といった感じだろうか。
私は全くもって答えを見出せない。
朝食の目玉焼きをご飯の上にのせて食べながら人類の最大の謎「恋愛」に想いを馳せた。
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