6話_願望を君へ②

「実験なんかじゃないんだよ...」

死んだ目をしていたのが実験で話しかけてもらう前提でのフリじゃないのだというのなら一体なんなのだろう。

「でもこの前フリって」

「全部本当のこと言うわけないじゃん」

「信用されてなかったのか」

それは悲しすぎる。能力のことを教えてもらった時点で信用はされているものだとばかり思っていた。

「当たり前でしょ。まぁ私の能力を破ったのは貴方が初めてだし信用することにする。入って。お茶くらい出すよ」

「走ってきたからスポーツドリンクとか欲しいなぁ~」

実際、息は切れていないが疲れは溜まっている。

「はぁ。分かったわよ。出してあげる」

家にないから無理。と答えられると思っていたのだが、出してくれるらしい。だがもし能力を使って作り出す。というなら話は別だ。命を目の前で削られたくはないと思った俺は、

「いや、冗談だ。普通にお茶もらうよ」

「そう」

特に反応することもなく家の奥へ入っていく。1人残されてぼーっとする。

「入らないの?」

本当に入っていいのだろうか。という葛藤もあったが、入れと言うなら入るべきだろう。



「おじゃまします」

「そんなかしこまらなくてもいいよ」

そうは言っても女子の家はなんだか新鮮だ。

玄関に入ると靴が一足綺麗に並んでいる。おおかたつばきの靴だろう。左手には傘やら靴やらを入れる棚があり、綺麗に整理されている。綺麗好きなのが手に取るようにわかる。




「この家どうしたんだ?」

玄関から真っ直ぐ進み本ばかり置いてある部屋に連れてこられる。

「能力を使って買った」

「能力?」

この能力は家をも作れるのだろうか。

「うん。お金を大量に作ってそのお金で買った」

「なるほどな」

家を作った。というよりはお金を作ったらしい。どちらにせよ命は削れるので関係ないが。

「んでここは?」

直接思った疑問をぶつける。

「家の中に図書室みたいなのを作ったの」

そういうことを知りたいのではないのだが、言い方が悪かったのかつばきには通じなかった。

「私はどこから来たのかも、どこで生まれたのかも、人間の子なのかも分からない」

「いや人間の子だろ」

当たり前だと思っていたことだが、つばきが人間ではない可能性はあるのだろうか。

「なにも覚えてない以上なにも分からない」

「そっか」

感想はそれだけだった。

「それで何も知らないし分からない私がここのことを知るためには本を読むのがいいって思ったの」

「本の存在も知らないのに?」

不可解な点が多すぎる。

「気づいた時には一冊の本を持ってたの。だから本の存在は知ってた」

「とことん謎だな」

「それで読んで学校というものを知ってこの前ちょっとだけ行ったの」

「なるほどな。ちなみに能力について本では調べられないのか?」

「全部読み尽くしたけどそんなのは一冊だけしかなかった」

「いやあったのかよ」

ないだろうとダメ元で言ったのだがあったらしい。その本があれば能力の本質やつばきが誰なのかもわかるかもしれない。

「元から私が持ってたこの無地の本。ここに能力についてが書かれてる。読む?」

「いいのか?」

「うん。別に知られてまずいことなんて書いてないからね」

ということは特に詳しい詳細も書いていないのだろう。上の本を撮るために置いてあるキャタツの様なものの上に座り本を開く。

ぎっしり文字が並んでいる。




能力についてやリスクについてだ。



この無地の薄い本を読んだあと、俺はあの死んだ目のフリの正体を知ることになる...

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