4話_消えかけた糸

「あぁ、おはよ」

早朝学校についた俺は須藤に挨拶をする。

「よお。昨日のアレは上手くいったのか?」

「は?なんのことだ?」

全く身に覚えのないことを須藤から言われる。普通に過ごしていただけだが特別に何かあったかのような言い草だ。

「え?えぇ...なんだっけ」

「なんだそりゃ。お前も覚えてないんじゃん」

どうやら須藤の思い過ごしだったらしい。

「すまん。覚えてねぇわ」

「ま、覚えてないってことは重要なことでないんだろどうせ」

「だな」


これで会話も終わり、席に座る。特に喋る人もいないのでのんびりと窓の外をながめる。



「なんか...忘れてるような気がしてるんだよな」

須藤がさっき言っていた"アレ"がどうも引っかかる。何もなかったはずなのに、"アレ"なんだ。




「なぁ購買買いに行こうぜ」

「ん?あぁ」

気づけば4時間目が終わっていたらしい。ここは食堂もあるのだが、購買の方が安上がりなのでそちらをいつも買いに行く。

「なぁ"アレ"ってなんだったんだろうな」

素直を疑問を須藤にぶつける。

「覚えてないんだからしらねぇよ」

「だよな」

これ以上聞いてもなにも出てこないだろう。そう思った俺は話題を変えて昼ご飯のパンを貪るのだった。




そこから"アレ"がなにだったかを考えながら5時間目まできた。

5時間目は理科の化学だ。

なのに...だ。先生は全く関係ない話を繰り広げる。

「あのさ、俺この前すごいことあってさ」

理科の先生、佐々木先生が授業をせずに話す。

元はイケメンで勉強も出来てスポーツ万能。なにもかもが完璧...だと言いたいのだが、女癖があり少し面倒くさい先生だ。

なにより学校で働けていることが不思議なくらいに。

「俺この前学校から家に帰ってるときにさ、女の人にあとつけられててさ」

いつもこのような話だ。少し自分がモテるからといってその自慢をクラスにぶちまける。なので当然、クラスの人たちから嫌われて"イキリホスト"なんて呼ばれてたりもする。

「アレってなに?ストーカーって言うの?」

「は...??」

普段は聞き流す話なのに、なぜかとっかかってしまった。何かがおかしい。なにもなかったはずなのにストーカー...もといストーキングについて無性に引っかかる。

考えてもなにも出てこないのに、思考をめぐらせる。



キーンコーンカーンコーン。

そんなことを考えているうちに5時間目が終わる。

「うわっ、今日一切授業進められなかった。次は進めるな」

皆進めて欲しいのに、授業はなかなか進まない。




「なぁ須藤」

前の席に座って次の授業の宿題をしている須藤に話しかける。

「なんだ?」

「アレってストーキングのことじゃないのか?」

正直まだなにも思い出してないが、"アレ"と"ストーキング"が引っかかる。

「分からん。お前しつこいぞ」

「す、すまん」

前を向き、宿題を再び進める。




一度、気分転換をしようと水筒を取りにロッカーまで行く。



そこで俺は一つの疑問が出た。

「あ?ここの席誰だ?」

全く身に覚えのない席が一つある。

「なぁ、ここの席誰か知ってるか?」

近くにいた女子に話しかける。

「え?分かんない。ちょっと前からあるよ?」

「あ、そうなのか。ありがとう」

今日は不思議だ。毎日学校に来ているはずなのに、知らないことや妙に分からないことが後を絶たない。





6時間目、数学の授業が始まる。

「おい、お前ら宿題したかー」

狩野先生が教室に入ってくる。

「せんせー忘れましたー」

「はぁ?!」

クラスの人と先生がそんな会話をする。




そんななか俺は一番後ろの席、

"ここは新しい席だから誰も座らないでね"と言わんばかりの椅子と机を見つめる。






「.....え?」

あ、あ?



「.........つい......たの?記...消.......いけ..........」

これは、断片。

記憶、端っこに寄せられた断片。

後ろの席と風景が重なる。

知らない少女が視界に重なる。

「お前は...誰だ?」






「なんで、ついてきちゃったの?記憶消さなきゃいけないじゃん」


点と点がつながる。

糸になる。

「あ、いつ...」




死んだ目をしていた少女。それは演技だと笑った少女。特別な能力を持った少女。自ら命を削る少女。





ーーストーキングをした、少女。






あいつの名前は...




愛葉椿。

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