1話_転校生

「.........つい......たの?記...消.......いけ..........」






キーンコーンカーンコーン


高校中にチャイムが鳴り響く。


朝のホームルームの時間だ。


「朝のホームルームって何気に面倒だよな」

「多分お前みたいな怠け者をなくすためにあるんだと思うぞ」

目の前に座っている男子、須藤が言ってくる。

「じゃあなおさら逆効果だと思う」

「学校に訴えれば?」

「訴えたところで変わらないし、面倒くさい」

おそらく、この結城奏多(ゆうきかなた)は学校1のめんどくさがりだ。

「じゃあ諦めるんだな」


ガラガラガラ、と教室の扉が開き中に入ってくるのはこの2年2組の担任狩野先生だ。頭がツルピカなのでよく、あのハゲなどと呼ばれたりする。

「あのハゲくるのはやくね?」

ちょっと真面目な須藤でさえもこの言い方だ。

「今日は転入生紹介すんぞー」

「「おぉ!!」」

クラス中に歓声が起こる。

「先生、女子ですか?男子ですか?」

生徒の一人が尋ねる。これで女子ならなおさら盛り上がる。

「女子だ」

「「おぉ!!やったー!!」」

クラス中が盛り上がる。正直うるさい。

「じゃあ入ってきていいぞー」

「どんな子かなぁ?」

クラスの女子がこそこそそんな話をする。

クラス中の期待が高まり、皆の視線が扉に集まる。


ハゲ先生とは違い、音を立てず静かに入ってくる。

みんなの目の期待がなくなっていく。

その先には、


目の死んだ少女が教卓に歩く姿があった。


「じゃあ自己紹介して」

彼女はこくっ、と小さく頷き小声で

「愛葉、椿です」

と後ろの席の人は聞こえないであろう声でそう言った。


「じゃあ今度はみんなの番な。一番右の列から縦にしていって」

突然のフリにみんな動揺する。


「よかったなかなた。俺らは一番左の列の2、3列目じゃん」

「あぁ、でもその代わり最後の締めくくりだから失敗出来ないぞ」

正直どうでもいいが。

「あ、たしかに...かなた?!どうすりゃいい?!」

「俺に聞くな。めんどくさい」

「あぁ!お前役にたたねぇ?!」

「おい須藤うるさいぞ!」

遂にハゲからお叱りが来た。

「あ、すみません」

反省の色を見せず平謝りする須藤。


そこから静かに自己紹介は進んでいき、俺の番に来た。

「結城奏多です。趣味は特にありません」

「いやそれだけ?!もっと言えよ?!」

ハゲ先生が怒鳴る。

「えぇ、あとは...星を見ることがちょっと好きだったりします」

何を言っても彼女は無反応だ。

自己紹介をしている人の顔をただ見ているだけだ。

「まぁ、いいわそれで」

先生から承諾を得たので席に座る。

「えぇっと須藤です。卓球してます」

「はい、次」

自己紹介が終わった須藤は席に座りまたこちらを向く。

「思ったより楽だったな」

「いや高校生にもなって自己紹介に緊張するやつなんているかよ」

「ここにいるぞ」

そうだった。目の前にいた。

「まぁそんなことはどうでもいいんだよ」

「なんかあるのか?」

「いや、早く帰りたいだけ」

本音だ。ハゲに聞こえれば怒られるが。あいにくあのハゲは耳が悪い。

「なんだそりゃ」


気づけば全員の自己紹介は終わり

1時間目へと入った。





「1時間目から数学かよ...」

数学は狩野の担当だ。

「こりゃ地獄が続きそうだな」

「まったくだ」






俺たちは転入生を迎え入れ、合計29人となったクラスで1時間目から数学という地獄の1日を過ごすのだった。

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