二章 シルキー城の一夜

第22、23話 ついたよ。シルキー城



 三村くんとの衝撃の出会いから三十分後。

 僕らはようやく、シルキー城についた。

 道々、何度かバトルしつつ、小銭も拾いつつ。


 小銭。けっこう拾える。二、三十歩ごとに数円、落ちているのだ。最初は一円玉一つしか落ちてなかったのに、じょじょに額が増えていく。今では一回につき、二、三円がふつう。

 ああ、ここは夢の国だ。

 働かずして、お金が増えていく。


 おかげで、もう三百円以上、たまっちゃった。三百円って言ったら、大した金額じゃないんだけど、たぶん、この世界の物価は現実世界より、かなり低い。木刀が五十円だからね。

 お金をいっぱい貯めて、なるべく、いい装備を買おう。


 シルキー城は美しい白亜の城だ。

 ネズミの国のシンデレラ城みたいな。

 城下町と一体型ではなかった。町はついてないみたいだ。引退した元王様のお城だからだろう。別荘的なお城のようだ。


「つきましたね。じゃあ二人は僕の護衛してくれたので、自由に宿舎を使えるようにしておきます。お城のなかは好きなように見学していいですよ。じゃあ」


「ちょっと待った!」


 蘭さんが行ってしまいそうになったので、僕はあわてて呼びとめた。


 なぜなら、NPCの蘭さんとは、もしかしたら、ここでお別れかもしれないからだ。

 こういうゲームの典型的な攻略法。

 それは、二度と仲間にならないNPCの装備は、まるごと、ぶんどる——である。売ってお金を貯めたり、できるようなら自分で装備したりするために。


 ど、どうしよう?

 こう見た感じ、蘭さんは、いかにもお忍びのお姫様が着てそうな、ちょっと高価そうなドレスを着ている。売れば、それなりの値段になりそうな。


 どどど、どうしようかな?

 剥ぐ? 剥がない?

 こんな美女の服、身ぐるみ剥がしたら、もろヘンタイだよね?

 ゲームのなかでは平気でできたんだけどなぁ……。

 じっさいに、その場面になると、ちょっとできないよ。

 というか、相手が蘭さんだし。

 友達の服、奪うって、人間として、どうかと思う。


 すると、待ちくたびれた蘭さんがたずねてくる。めっちゃ素敵な笑顔で。


「何か?」

「えっ? えっと……」


 ど、どうしよう。

 剥ぐ? 剥がない?


「用がないなら行きますよ?」

「う、うん……」


 このキラッキラの笑顔。

 信頼されてる。

 ここで「はい。はい。服ぬいでぇ」とは言えない。言えないよ、僕……。


「じゃあね。かーくんさん?」

「うん。バイバイ」


 僕は泣く泣く蘭さん(のドレス)を見送った。



 *


 ま、いいや。

 自由にしていいと言われたので、僕はここぞと、城のなかをうろつく。

 某ゲームのように棚の引き出しとかあけてもいいのかな?

 さすがにマズイか。

 始まりの街でドロボーになってしまった僕が、さらによその街でも次々ドロボーしてくのは、どうかと思う。


 ちなみに三村くんは、まだ仲間らしくて、僕のあとをついてくる。


「ねえ、三村くん」

「なんやいな」

「勝手に引き出しあけちゃダメだよね?」

「あかんやろ」

「だよね」

「あっ、でも、この世には壊しても壊しても自動で修復するツボやタルがあるらしいで」

「えっ? そうなの?」

「たまに薬草とか入ってるらしいんや。ほんで、そういうツボやタルは、ちょい光ってるらしいんや」

「そうなんだ!」


 まさに、あのゲームのツボだ。

 割ると小さなコインとか出てくるんだよね。よし、それを探そう。


 僕らは図書館や教会、休憩のできる宿舎、兵士の詰所など、いろんなところを探検した。教会では、もちろんお祈りした。こういう新しく来た場所では、とつぜん、イベント始まるかもしれないからね。


 兵士の詰所では、兵士たちがウワサ話に興じている。


「知っているか? この世のどこかでは、勇者が誕生したらしいぞ。勇者はどこかの国の王子らしい」


「引退された、わが城の城主ココノエさまは、たいそうお優しいかただが、跡をお継ぎになった今の王は、とても野心家であらせられる」


「今の王ブランさまと、姫君のらんらんさまは母上が異なるのだ」


「らんらんさまの母上は二度めのお妃様でな。そのせいか、ご兄妹の仲がたいそう悪くて」


「ブランさまは、らんらんさまがお生まれになるとき、男だったら王位の継承争いにならぬよう、始末してしまおうとお考えだったようだ」


 うーん。なるほど。これが街のウワサか。なるほどねぇ。RPGでは情報収集が大事だからねぇ。

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