第20、21話 あの男、登場!
「あっ、かーくんさん……」
「助けてェー。蘭さん」
「僕の名前は、らんらんです」
「今そこ? 今この状態で、そこなのッ?」
泣き叫ぶ僕の目の前まで、巨大なイモムシの口が……口が……食われるのも嫌だけど、気持ち悪いのもイヤッ!
と、そのときだ。
ヒュヒュヒュンと、どこかから風を切る音が響き、いきなり、キャタッピの頭をゴッツンと何かが殴打していった。ブーメランだ。
キャタッピは「ギャンッ!」と鳴いて、地面に倒れふす。目をまわした。
ついでに、戻ってきたブーメランが僕のまわりの糸をプチプチとちぎってくれた。
「た、助かった……」
勝利の音楽が鳴りわたり、バトルは終了した。いちおう勝ったようだ。経験値10と5円を獲得とテロップが流れる。
5円……あいかわらず、やっすいな。これなら得意技で拾える小銭と大差ない。命がけで5円って、僕の命は5円の価値か?
あっ、それどころじゃないぞ。
あのブーメランの持ちぬしは?
僕がキョロキョロあたりを見まわすと、その人物はやってきた。
この世界がいろんなゲームのパロディなことは、すでにわかっていた。それにしても、その男の服装はかなりヤバイくらい、猫を奪っていきそうな名前のゲーム主人公のカッコに激似だった。
しかも、見なれた顔パート2だ。
「……三村くん?」
それは兄や蘭さんと共通の僕らの大阪の友人だ。見ためはチンピラっぽいけど、根は人情家。
「ん? おれか? おれは通りすがりの旅の商人や。自分、危なかったな。そない軽装で外ほっつき歩いたら、あかんで」
うん。それは、もちろん、おっしゃるとおりなんだよ。僕だって、ウロつきたくてウロついてるわけじゃない。
「えーと、とにかく、ありがとう」
「困ったときはおたがいさまや。自分ら、シルキー城まで行くんか?」
「何そのファンシーな名前のお城」
すると、蘭さんが説明してくれた。
「これから僕らが行く城ですよ」
「あっ、そうなんだ。ちなみに、さっきまでいた街は?」
「ミルキー城とその城下町です」
ますます、ファンシー。
「シルキー城かいな。ほなら、目的地いっしょやな。同行しょうや」
「うん。まあ、いいけど。僕は、かーくん」
「僕は、らんらん」
そして、三村くんは言った。
「おれ、シャケや。よろしゅうな!」
シャケ!
それでいいのか、ネーミング……。
*
シャケ……僕がその名前をつけられたら、一生、親を恨むけど、三村くんは平気な顔だ。じゃっかんのドヤ顔ですらある。
まあ、三村くん、現実世界でも意味合い的には“シャケ”って名前つけられてるもんな。
かわいちょう……。
シャケ、かわいちょう。
という僕の心の声が聞こえたかどうかはわからないが、くるりと三村くんがふりかえる。
「かーくん。金、どないするんや? いらんのかいな?」
「えっ? お金はいるよ」
「なら、とりに行きぃや」
「えっ?」
三村くんが指さすのは、クルクル渦巻き状に目をまわしたキャタッピだ。
うっ、これを、どうしろと?
「まだ、五円、回収してないやろ?」
「あっ、うん。そうだった」
「とりに行きぃや」
そう言って、三村くんはキャタッピの口を示す。
えっ? だからその口をどうしろと?
ま、まさか、そのなかへ入れって言ってないよね?
「えっと……」
「早よせな、キャタッピ起きてまうで?」
だからって、口のなかに入っていけない……。
「ほら。早よ、早よ」
「い、いや。今回は僕、いいよ。助けてもらったし、この戦闘の報酬は三村くんのものだと思うな」
「ええんか? ほな、貰うで?」
「うん!」
むしろ貰ってくれ!
「ほんまか。ありがとな」
シャケ三村くんはキャタッピの口のなかへと旅立っていった……。
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