第17、18、19話 えっ? まさか、ダンジョンボス?
薬草が四つ。
革の帽子。
お金も合計百五十円。
宝箱から見つけた。
小銭も数回、拾った。
それは小さなコインじゃなく、ただの一円玉だったけど。
もうだいたい、ダンジョンのなかは歩きつくした。
とりあえず、この抜け道を出て、いよいよ外の世界へ向かおうか。
と、そう思っていたときだ。
蘭さんが言った。
「もうすぐ出口のはずです。でも、変ですね。さっきからダンジョンのなかの空気が変わりませんか?」
うーん。そう言われれば。
なんか、冷やっこいような?
蘭さんは不安そうだ。
「おかしいな。このへんに、こんな強い力を感じさせるものなんてないはずなのに」
「そうなの?」
「僕の得意技の一つは危険察知ですから」
「そうなんだ」
ともかく、もうこのダンジョンのなかで歩いていないのは、このさきしかない。出口を見つけるためには行ってみるしかない。
僕と蘭さんは戸惑いながら歩いていった。
そして、出口の前にたむろしている魔物を見つけた。スライムなんかじゃない。もっと遥かに強いやつらだと、ひとめでわかる。ゲームの終盤で、ラストダンジョン付近で見かけるようなやつらだ。
魔物たちは何やら話しながら、ぞろぞろ外へ出ていくところだった。
戦闘になったら、僕も蘭さんもまちがいなく絶命なので、柱の陰に身を隠し、じっと息を殺した。
よかった。
この調子なら、気づかれずにやりすごせそうだ。
ところがだ。
そこで僕は信じられないものを見た。
魔物の一団にまじって、人間が一人。
それが、どう見ても、わが兄なのだ。
「た……猛?」
「あれ? かーくん?」
「猛、何やってんの?」
「えっ? ちょっとな。悪い。悪い。じゃ、あとでな」
ええーッ?
兄は僕を見捨てて、さっさと去っていくのであった。
*
なんで? 兄ちゃん?
どこ行くんだよぉー。猛ぅー。
僕が追いかけていったときには、もう猛はいなくなっていた。
ボス戦にならなくてすんだのはラッキーだったけど、なんだかなぁ。気になる。
ダンジョンをぬけだすと、外は青空だ。
さっきの強そうな魔物の一団は影も形もない。
猛はどこ行ったんだろうなぁ?
「うわー。スゴイ! 森だ。山だ。草原だ。人工物が何もない!」
厳密に言えば、さっき出てきた抜け道の出口はある。ちっちゃい一軒家みたいなのが出入口の上に建っていた。
でも、そこに背中さえ向けてれば、まるまる大自然だぁー。
電柱がない。電線もない。信号機もない。道路がアスファルトじゃない!
なんか、開放感〜
世界はほんとに広いんだなぁ。
「さ、かーくん。こっちですよ。行きましょう」
「あ、うん。行こっか」
しばらく進むと、街道に出た。
土をふみかためただけの道だ。
頭上をトンビなんか飛んで、のどかだなぁ。
ん? んん?
変だな。僕の目がおかしくなったかな?
遠近感がなんか普通じゃないんですけど?
道のまんなかに、ぽつんとイモムシっぽいものが……歩いても歩いても、いっこうに近づいてこない?
いや、違う。
アイツがデカすぎるんだ!
どんだけデカイんだ?
やがて、そいつは街道をふさいで僕らの行く手に現れた。
「キャタッピですね」
微妙に名前もじってあるけど、あのゲームに出てくるイモムシ的なモンスターか。
やだなぁ。虫……戦うの?
*
目の前に立ちふさがる巨大イモムシ!
モスラだ。モスラの幼虫。
そうだよね。
ずっと可愛いスライムとだけ戦ってればいいってもんじゃないよね。
だからって、虫はハードル高いなぁ……。
「かーくんさん。やりますよ?」
「ええ……っ?」
僕の気分なんか、おかまいなしだ。
チャララララララララ〜
戦闘の音楽がかかってしまった。
——野生のキャタッピが現れた!
し、しかたない。やるしかないのか?
でも、やだなぁ。
さわりたくない。
だ、大丈夫。僕には木刀がある!
まさか、噛んできたりしないよね?
いやいやながら、ぽこ!
木刀が、うなる。
ん? 反応がないぞ?
チャンスなのか?
「えい! えい! えい!」
ぽこ。ぽこ。ぽこ。
やっぱり無反応だ。
もしかして、ただの置物か?
オブジェ的な何か?
まあいい。今のうちだ。
ぽこ。ぽこ。ぽこ。ぽこ。
もう一つオマケに、ぽこっとな。
「どうだ?」
ん? 巨大なイモムシっぽいものが、とつぜん、ブルッとふるえて……からの?
「キエエエエーーーーッ!」
ぎゃあーッ! 怒り狂ったー!
タックル?
タックルはやめてよね。
お願い。さわらないでぇ!
僕は天に祈った。
祈りは……と、届いたのかもしれない?
いちおうタックルは受けなかった。
かわりに襲ってきたのは糸だ。
キャタッピの口から真っ白い糸が吐きだされ、僕の体にまきついてくる。
ど、どうしよう。
身動きとれない。
キャタッピが大きく口をあけて迫ってくる。
え? まさか、食べるの?
僕のこと食う気なのかッ?
やめてェー!
それなら、まだタックルのほうがマシ!
「だ……誰か助けてェー!」
僕は再度、神に祈った。
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