第11、12話 た、宝箱だ〜



 歩いていくと、道は二股にわかれた。


「どっち?」

「さあ。僕もここに入るの初めてなので」

「ふうん。じゃあ、右に行ってみるよ?」

「かまいませんよ」


 僕らは右手に折れた。

 少し進むと、そのさきが袋小路になってることがわかった。


「なんだぁ。行き止まりかぁ。戻ろう」


 が、しかしだ。

 美しい蘭さんが、急に鬼の形相で僕に迫ってくる。

 関係ないけど、蘭さんはちょっぴり僕より身長高いようだ。やっぱり現実のデータが踏襲とうしゅうされている。

 うーん、ってことは、ほんとは蘭さん、男なんじゃないのかな?

 男の娘?

 でも、姫様って呼ばれてたしなぁ……。


「ちゃんと奥まで行ってください! 行かないと後悔しますよ? 行け! 今すぐ、まっすぐ前見て歩いていけ!」

「は、はい。すいません。ごめんなさい」


 だって、どうせ行き止まりだよ?

 歩数でエンカウントするんでしょ? 回復道具もないし、いきなり初ダンジョンで死にたくないんだけど。

 まあ、言われたから行くけどさ。


 どうせ、なんにもな——あったーッ!

 なんかある。

 あれは、もしや?

 もしかしなくても、た……宝箱だぁー!


 いいの? まだ物語、始まったばっかだけど。もう宝箱ひらいていいの?

 宝箱。その言葉に詰まった夢と希望。

 嬉しい。

 宝箱って百パーセント回収したい派なんだよね。

 二択とか三択で、一つしか選べない宝箱は、臓腑ぞうふをえぐられるようにツライ。


 宝箱〜

 僕のお宝ちゃん。今、行くよ〜


 僕はスキップしながら宝箱にとびついた。と、そのときだ。宝箱の陰からモンスターが現れた。

 スライム三匹だ。

 か、囲まれたー!



 *


「わぁっ! 出たー!」

「かーくん。落ちついてください。言っても、しょせんスライムです。今回は僕も援護しますから」


 そう? じゃあ、さっきも援護してほしかったな。わりと痛かったんだけど。


 そういえば、さっきのバトルのあと確認してないけど、今の僕のHPっていくつなんだ? 死にかけじゃないよね?


 モニターが浮かびあがる。

 どうやら見たいと考えると自動で出てくるらしい。


 えーと、HP10……えっ? 10? 10ですか?

 たった一匹、スライムと戦っただけで、僕のHP半分になったの?

 ええーッ! 僕、弱すぎる!


 ど、どうしよう。

 スライム一匹と戦うのがギリなこの体。

 三匹もいるんだけど?

 必死じゃん。

 この場合の必死は、必ず死ぬ、だ。

 死ぬよ。僕。


 でも、スライムたちは容赦してくれない。可愛い黒い目を三角にしちゃったりしてさ。いっちょまえに、やってやるって顔してる。


「かーくんさん。行きますよ?」

「はい!」


 そうだ。ビビってる場合じゃない。

 スライムたちを倒せば、その奥には宝箱だ。

 宝箱〜

 僕のお宝ちゃ〜ん。


 僕は木刀をかまえると、目の前のスライムをタコなぐりにした。

 ぽこ。ぽこ。ぽこ。叩く。叩く。叩く。

 宝箱。宝箱。早くあけたい。

 ここで負けたら、もしかして夢、覚めちゃうんじゃないか?

 ヤダー! それだけはイヤだー!

 せめて宝箱の中身を見てから死にたい。


 ぽこ。ぽこ。ぽこ。ぽこり。ぽこ。ぽこ——


 お返しタックル。タックル。タックル……。


 イテテ。これが痛いんだよな。

 なんか、めまいがする……?

 あれ? 大丈夫か? 僕。


 そのときだ。


「元気になれ〜」

 蘭さんが素敵な笑顔で歌うように言った。

 すると、ふわりと白い光が僕を包んで、痛みが遠のく。

 治った。ダメージが治った。

 もしかして、これが魔法か?

 ヒール的な癒しマジック?


 とにかく、元気になった僕はあらためて、タコなぐり。

 ぽこ。ぽこ。ぽこ。みぽこ。ぽこ。


 倒した。

 スライム三匹倒した。


 チャラララッチャッチャー。

 む? この音楽は?

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