第9、10話 冒険者が稼ぎを得るには



「あれっ? 三円って、どこ? 僕の三円は?」


 手の内にもないし、ポッケにもなし。

 スライムのまわりに転がってるわけでもない。

 僕は手に入れたはずの三円を探しまわった。無一文だから三円とは言え惜しい。


 すると、ずっと腕を組んでようすを見てた蘭さんが言う。


「そんなとこ探してもありませんよ? 早く、モンスターが失神してるうちに、ふところ、あさらないと」

「えッ?」

「えッ、じゃないですよ? だって、モンスターが負けたからって、親切にお金渡してくれるわけないじゃないですか。とるんです。それが勝者の権利です」

「ええーッ!」


 ショック!

 そ、そうだったのか?

 僕がかつて受験勉強も忘れるほど楽しませてもらったあのゲームやこのゲームも、じつは主人公はそうやって収入を得てたのか?


 まあ、そうか……。

 そうだよね。

 都合よくお金が湧いてでるわけがない。

 勇者は強奪を重ねて、あそこまで強くなってたのか。


 しょうがない。

 ここは木刀の代金を払うために、可愛いスラちゃんから小銭を奪おう。


 僕は目をまわしてノビているスライムのふところを……ふところを……。


「蘭さん! ふところがない!」

「スライムですからね。ほら、見えてるじゃないですか。体のなかに」

「体のなか?」

「なかです」


 なるほど。よく見れば、ゼリーのあちこちに、キラキラしたものが見える。さらによく見れば、見なれた十円玉や五円玉だ。一円が一番、たくさんあるな。


「たぶん、落ちてる小銭を飲みこむ習性があるんでしょうね。服を着る習慣のないモンスターは、たいてい体内に隠し持ってるか、髪の毛のなかに忍ばせてるか、そんなところです」


 なんか、バッチい……。


「早く、とりださないと、スライムが目を覚ましてしまいますよ?」

「どうやって、とるの?」

「あなたには腕があるじゃないですか」

「腕?」


 ま、まさか、腕を、つっこめとォー?

 スライムの口に?


「お金、いらないんですか?」と、蘭さん。

「いや、いるよ」


 しょ、しょうがない。

 僕は覚悟を決めた。



 *


 スライムは笑み口をあけて気絶している。やるなら今だ。


 僕はスッと伸ばした腕を、おもむろにスライムの口のなかへ……。


 ぎゃー! なんかひっつく。つるんとヒルっぽい何か。

 カエル? アマガエルの感触に似てるなぁ。ヒンヤリして、つるつるで、ほんのり、しっとり濡れてる感じ。ほんで、微妙にやわらかいんだよね。


 決して嫌いな触感ではないけど、モンスターの口に手を入れてると思うと、別の意味で緊張する。

 今、スライムが目を覚ましたら、大変なことになるんじゃないか?

 かみつかれないかな?

 スライム、歯がないから、食いちぎられはしないだろうけど。


「かーくんさん! そこです。小銭、にぎりしめて」


 えっ? ちゃんと見てなかった。あっ、ほんとだ。手が届くぞ。


 僕は小銭をつかみとると、サッとひきだした。

 ヤッター! 初収入〜

 初任給を貰ったときの喜びを思いだす。

 三円じゃ、なんにも買えないけどさ。


 僕は勇んで手をひらいた。

 うん。なんか、ねっとりしてる感があるけど、一円玉が三つ。

 たしかに、いただいたぜ。へへへ。


 僕はスライムのヨダレまみれのお金をポッケに入れた。

 あと十六匹倒せば、木刀の代金が支払える。


「さ、行こう。蘭さん。あれ? なんで、そんなに離れてるの?」

「えっ? いえ、なんかその……早く手を洗ってください」


 ええ、ええ。どうせバッチいですよ!

 スライムまみれ〜


 僕らは、さらにダンジョンの奥深くへと歩いていくのだった。

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