第7、8話 出た出た、スライム〜
扉には鍵がかかっていなかった。
なんでモンスターが出るような場所あけっぱなしにしてるのかなぁ?
「さ、行きますよ?」
「は、はい……」
蘭さんは意気揚々と地下道へとふみこむ。僕はそのあとを、へっぴり腰でついていく。
暗い……けど、こういうダンジョンって、なんか都合よく松明で照らされてるよね。まだ最初のダンジョンだから、松明買うお金もないからかなぁ?
「と、ところでさ。蘭さんはお姫様なんでしょ? なんでお城から逃げだしてきたの?」
「政略結婚させられるからです」
「えッ? 結婚?」
「ええ。兄がいるんですけどね。僕と仲が悪いんです」
うんうん。蘭さん、実のお兄さんと険悪だったな。複雑な家庭だからなぁ。
「そ、それで?」
「となりの国の国王と僕を結婚させて、領土を倍にしたいみたいなんですよね。そんな結婚、絶対、絶対したくないんで」
「そうだよね。でも、逃げだして、どうするの?」
「兄に王位を譲って引退した父がいる城まで行くんです。父に頼めば、そんな結婚はとりやめにしてくれます」
「そうなんだ。そのお城、遠いの?」
「街を出て森をぬけた湖のほとりです」
うーん。RPGっぽい。いい感じ。楽しい夢だなぁ。
話しながら歩いてると、急に音楽が変わった。えっ? いつから音楽かかってた? あれ? もしかして最初から、ずっと? 恐るべし。ゲーム感覚。BGM自然すぎ。
そして、モニターに文字が浮かぶ。
——野生のスライムが現れた!——
*
薄暗い地下道に、プルプルとふるえる青いゼリー。
うん。グミっぽいな。
これか。これがあの有名なロープレゲー最弱のスライムかぁ。
大きさはスイカくらい。
つぶらな黒い瞳が可愛い。
可愛いのに戦わないといけないのか……。
ちょっと胸が痛むなぁ。
「かーくんさん。ぼーっとしてないで、戦いますよ?」
「は、はい」
チャラララララララララ。
チャチャチャン、チャチャチャン、チャチャチャンチャン!
にぎやかなBGMに後押しされて、僕は木刀をかまえる。ドロボーだけど、このさい、しょうがない。他に武器ないし。スマホで戦うわけにはいかない。
ごめんね。スラちゃん。行くよ? 叩くよ?
「えい!」
ぽこ。
「ピキィー!」
あっ、スライムが苦痛の表情に……。
なんか悪いことしてる気分。
あれ? でも、次の瞬間、スラちゃん、怒った。うわっ、反撃してくるんですけど。体あたりをかましてきたー! ノーッ! 僕はスライムアタックを受けて尻もちついた。
や、ヤバイ。それなりに痛い。
これはかわいそうとか言ってる場合じゃない。向こうはマジだ。このままでは、
「えい! えい!」
ぽこ。ぽこ。
「ピキィー。ピキィー」
反撃。タックル。タックル。
いてて、イテ。
「えい! えい! えい!」
ぽこ。ぽこ。ぽこ。
「ピキィー。ピキィー。ピキ……」
あっ、目をまわした。
かっ、勝ったー!
僕はスライムに勝ったー!
テロップが流れる。
——スライムを倒した。経験値3、三円を手に入れた——
んん、三円かぁ。スライム、やっすいな。木刀代を稼ぐためには、スラちゃんを十七体、倒さないといけないのか。体力……もたないぞ?
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