Ⅱ 合コンクィーンにはみんなで祝福を
とある大学の構内にある、カフェのように洒落た学食の一角……。
「――さあて、ホワイトデーだし、誰からはじめよっかなあ~。でも、今日中に全員は無理か……とりあえず一日一人とデートで、しばらくは豪華なディナーが楽しめそう」
独り、丸テーブルに腰掛ける、ブランドもので着飾った美形女子大生が、にやにやスマホを弄りながら誰に言うともなく呟いていた。
その画面には、昨今、皆が連絡ツールとして使うロサンゼルス発のSNS「L.A.in」の連絡先リストが映っている。
だが、一つ違和感を覚えるのは、そこに並んでいるのが男のものばかりだということだ。
「どれにしようかな~天の神さまの言うとおり~……いや、うっかり二度送信とかガチにマズいし、ここはあいうえお順でいくか」
彼女は愉しそうに独り言を口にしながら、そのリストの一番上にある「あっくん」という人物のアイコンをタップする。
そのリストに居並ぶ男達は、すべて彼女が今、同時並行で付き合っている者達である。
二股どころか三股、四股…いや、すでに十股を超え、浮気性のお笑い芸人も真っ青な勢いである。
彼女はコンパといえばどこへでも顔を出すいわゆる〝合コンクィーン〟であり、そこで自分好みの男を見つけては生来の美貌と男を手玉にとる小悪魔テクニックでまんまと篭絡し、そうやって次々に〝メンズ〟と呼ぶカレシの一人に加えていっているのである。
いや、それでもまだ、彼女が無類の男好きであるとか、男に癒してもらわなくては生きていけない性格の女であるとかならばまだいい……。
だが、彼女にとって男達は、お金や労力を自分に提供してくれる奴隷のような存在に過ぎない。
彼女はこの〝メンズ〟達を便利な道具としか見ていないのである。
そう……コロっと騙される哀れな男達には酷な告発であるが、彼女はその美しい外見やカワイらしい言動とは裏腹に、なんとも救いがたき心の汚れた、最低最悪のゲス女なのである!
無論、神はそのような者を許してはおかない………。
「えっと……やっほー! 今日はホワイトデーだし、どっかデート行こうよ~。あ、お返しとかはほんと気にしなくていいからね……と」
彼女はすばやくそんな文面を打ち込むと〝L.A.in〟のメッセージをカレシ其之一へと送る。
「ま、そう言われたからって、豪華なお食事と倍返しのプレゼントは必須だけどね……さて、ダブルブッキングしないよう気をつけなきゃ」
そして、思わずそんな本音を呟きつつも複数人とのデートスケジュールを管理すべく、毎日びっしり遊びの予定の書き込まれた女子らしい手帳をテーブルの上に開いて待つこと一分足らず。
ピコン! と着信音が鳴り、すぐに返信が帰って来た。
「来た来た。どれどれ、今回はどんなバカっぽい口説き文句かなあ……え?」
因業な笑みを口元に浮かべ、さっそくそのメッセージを開くゲス女だったが。
[ごめん。もう君とは付き合えない。メッセージもこれきりで]
そんな、まったく想定外の文章がそこには記されていた。
「え? なにこれ? ちょっとどういうこと? メンズ風情がなに調子乗ってくれてるわけ?」
一瞬、驚きに目が点になるもすぐに怒りが込み上げてきて、生意気なカレシ其之一を問い質すべく、速攻、返信しようとする彼女……だが、一足先にブロックされたらしくリストから彼の名前も消える。
「ええ!? 人生初ブロックされた~。もうなに、ちょームカツクんですけど。ま、メンズの一人や二人別にいいもん。あんたの代わりなんかいくらでもいるんですからねーっと……」
思いもよらぬ返事とこれまで経験したことのなかったブロックに、大きな衝撃を受ける彼女だったがそこは男に困っていないゲス女。すぐに気を取り直すと次に名前のあった〝かっちゃん〟へと先程のメッセージをコピペして送りつける。
「今受けたショックの分、代わりに慰めてもらわないと……お、来た来た。やっぱ、わたしのメンズ達は反応早いなあ。どんだけわたしのこと好きなんだか……」
するとまたピコン! とすぐに返信があり、先程の一件をなかったこととするかのように、自信満々に開いてみる彼女だったが。
「………え? ちょ、ちょっとどういうこと? 何が起きてんの……?」
その返信には……
[寝ぼけたこと言ってんじゃねーよ、このゲス女が! 俺達、おまえがなん股もかけてること知ってっから。じゃあな。永遠にアデュ~!]
と、やはり予想外の、しかも今度は悪意ある文言が踊っていた。
そして、わずかな時間差を置いて彼も彼女をブロックし、リストからその名前が消える。
「もお! ほんとムカツク! なに、どいつもこいつも……あんた達なんてね、こっちから永遠にSAY GOOD BAYだっつーの! こうなったら次のヤツには三倍返しのプレゼントでももらわなきゃ、わたしのこの怒りは収まらないわよ……でも、そういえば、確か俺
再びの男の反乱に今度はさすがに怒りを顕わにし、続けて三人目のメンズ〝ウッチー〟にまたコピペしたメッセージを送る彼女だが、送信ボタンをタップするのと同時に先程の返信の気になる言葉が脳裏を過る。
「ちょっと、ほんともういい加減にしてよ? さすがにあなたは他のヤツらみたいにバカじゃないわよね……」
すぐにまたピコン! と着信音が鳴り、そこはかとない疑念と不安に囚われながら、祈るような気持ちで彼女はその返信を開く……。
[なんかさ、〝神さま〟って名乗る知らないやつから、おまえがなん股もかけてるって告発するメッセージがあってさ。その相手達のIDも添付されてたんで裏取ってみたらほんとだったわ。ってことで、俺達、もうおまえには騙されないから。あ、あと、ツイッタワーやイェンスータでおまえの被害者の会のアカウント作って、みんなで名前や写真晒してこうと思うんでヨロシコ]
またも予想外に……いや、今度は半分案の定というべきか、それまでよりも長文で、そうした恐るべき内容がそこには書かれていた。
「う、ウソでしょ……なんで……なんでこんなことになるの! 神さまって誰! 誰がバラしたのよおっ!」
パッチリつけまつげで大きくした眼を血走らせ、カワイイ顔も台無しに血相を変えた彼女は、慌ててメンズ達のリストに戻って他の者達も確かめようとする。
「ええっ! ちょ、ちょっと待って……ねえ! ちょっとみんな待ってよおっ!」
だが、彼女が画面を見つめる中、メンズ達は各々に彼女をブロックし、見ている端から次々にその名前はリストから消えてゆく……。
あっという間に、連絡リストにあるのはさほど親しくもない女友達と、必要で登録してある事務的なものだけになった。
「そんなあ……」
そして、彼女が大きく嘆きの溜息を吐く前の卓上では、びっしり埋まるはずであった彼女の手帳の、来週以降のスケジュールも真っ白になった――。
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