Ⅰ ギャルには美白のプレゼントを
3月14日夕刻。とある高校の体育館裏……。
「――な、なんでしょう? 話って……」
線が細く、見るからにおとなしそうな男子生徒が一人、黒ギャル女子高生三人に囲まれていた。
遠く運動部のかけ声が聞こえてはくるが、普段から近づく者のないこの場所には他に人影も見当たらない。
「おい、今日何の日か知ってるよな?」
黒ギャルの一人、腕を組んだリーダー格の者が、高圧的な声の調子で男子生徒に尋ねた。
「……ほ、ホワイトデー……ですよね?」
男子生徒は瞳を震わせ、おどおどした態度でぼそぼそと答える。
「なんだ、わかってんじゃねーかよ」
「んじゃ、何しなきゃいけねーかも知ってるよな?」
すると、他の二人の黒ギャルもニヤリと悪どい笑みを浮かべ、重ねて確かめるように男子生徒を問い質す。
「お、お返し……ですか?」
「せいかーい。うちら、バレンタインにチョコあげたろ? コンビニのレジ横にある一個50円のやつだけどさ。ほら、わかってんならさっさとお返し出せよ。現金でもいいぜ?」
壁際に追い詰められた男子生徒がか細い声で答えると、再びリーダー格の黒ギャルが口を開き、彼の方へ突き出した手をひらひらさせながらチョコのお返しを要求した。
いや、もうお返しの要求というよりも完全にカツアゲである。常日頃から、彼はこうして三人に金品を恐喝されているのだ。
「あ、はい! 今日はちゃんと用意してきました。ちょ、ちょっと待ってください……」
だが、男子生徒はもう慣れっこなのか、素直に返事をすると持っていた鞄を漁り始める。
「ど、どうぞ。これ、皆さんで使ってください……」
そして、封筒から何やら三枚のチケットを取り出すと、三人の方へと慇懃に差し出した。
「へ~いい心がけじゃんか。ようやくてめーの立場ってものを理解したようだな……あん? 美白エステ券? おい、なんだよこれ?」
三人がそれを受け取って見ると、その細長い紙にはそんな文言と、彼女達とは正反対の色白な清楚系モデルがプリントされている。
「ゆ、夢で神さまのお告げがあったんです。ホワイトデーのお返しを求める者があったら、それを渡すようにって……それで、起きたら枕元にそのチケットが……」
チケットを手に眉根を寄せる黒ギャル達へ、男子生徒は震える声でおそるおそるそう説明する。
「はあ!? なにわけわかんねーこと言ってんだよ。ってか、てめーバカか? どうしてあたし達が美白エステなんか行くと思う? 日サロ行って焼いてるってのに美白なんかするわけねぇ…」
なにやらデンパの入った彼の説明に、リーダーの黒ギャルは呆れるとともに怒りを覚え、自分達にはまったく無用のそのチケットを頭上に振り上げて怒鳴るのだったが……。
「……ん?」
その時、ボン! という軽い音を響かせ、まるで手品か何かのように白い煙を上げながら、彼女の手にしたチケットが消え失せたのだった。
「……え!? ちょ、ちょっと、どうしたのさ、その肌!?」
すると、奇跡が起こった……彼女の姿を見て、他の黒ギャルが目をまん丸くして驚きの声を発する。
「え? 肌? なんのこと?」
「さ、さっきまで黒かったよね? なのに、なんでそんな白く……」
訝しげに訊き返すリーダーに、もう一人の黒ギャルも唖然とした様子で彼女の問いに答える。
「え、白……ええっ!? う、ウソやだ、なにこれ……ゲえっ! マジでえっ!?」
その言葉に自分の手を見るとなぜだか妙に白く、慌ててスマホをポケットから取り出し、インカメラで自身の顔を映してみると、そこには黒ギャルの自分とはまるで違う、真っ白い美肌になった己が眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。
なんと、それまで褐色だった彼女の肌は一瞬にして色白に変わっていたのだ。
「な、なんで白くなってんの? い、いったい…わっ!」
「あ! も、もしかして、このチケットのせい…キャっ!」
動揺するリーダーを見つめたまま目をパチクリさせる他二人であるが、彼女達の手にしていたチケットも同様にボン! ボン! と白い煙を上げて消失する。
「……え!? そういうあんただって白くなってるよ! ってか、あんたも!」
と、同時に二人のこんがり日焼けしていた肌も一瞬で美白に変わり、それを見たリーダーはなおいっそう驚いた様子でそのことを二人にも指摘する。
「え? ……うわっ! なんで!」
「ええ~っ! どういうこと~!?」
言われた二人もスマホで自身の顔を確かめ、やはりリーダーと同じように慌てふためく。
「どうして!? なんで、美白なんかに!?」
「せっかく…せっかく日サロ通ってここまで焼いたのに~」
「こんな美白じゃ、恥ずかしくて澁谷遊びに行けないよ~」
時を置かずして、美白になった黒ギャル達は一気に恐慌状態へと陥った。
「おい、てめえ! この美白……ひっく…どうしてくれるんだよお~っ!」
「……ぼ、僕はただ、神さまのお告げに従っただけで……そ、それじゃ、チョコのお返しはしたんで僕はこれで~っ!」
いつになく涙目になって怒りと嘆きの声を上げる黒ギャル達に、男子生徒は怯えながらも大慌てでその場を逃げ出した――。
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