第85話 本陣強襲

イベント終了まで残り1時間と十数分。


東、西軍とも着々と敵の勢力を削ってはいるものの、未だに拮抗状態が続いている。

両陣営のプレイヤー達は現状を打破する為、あるいは自らの利益の為に、特別ミッションのターゲットとなったメロア達を血眼になって探してはいるが、なかなか見つからずにいた。



「もしかしてもう誰かに倒されたんじゃないのか?」


「いや、だったら通知がくるはずだ」


「自分でリタイアした可能性は?」


「それこそ通知がくるだろう」


「じゃあ、まだ生き残ってる確率が高いか・・・もう少し探す範囲を広げてみるか」



などと真剣に探している者もいれば



「そういえばメロアの他に名前が分からない奴が2人いただろ?あいつらは誰なんだろうな」


「ああ、黒騎士だって他の奴らが言ってた。なんでも最近そのメロアと黒騎士達がクランを結成したらしい」


「へぇ・・・あ、でも、メロアってあの『渡り鳥』だろ?パーティクラッシャーの。もしかしたら今頃また仲間割れしているかもな」


「あはは、だったらちょうど良いな。仲間割れでHPが減っているところに攻撃を仕掛けたら大勝利間違いなしだ」



半ば諦めて下世話な話に花を咲かせる者もいた。


そんな中、前線よりはるか後方、西軍の司令官、宮本武蔵がいる本陣の傍で暗躍?する3人組の姿があった。


「ハッハッハ。指揮官殿や彼の護衛がいる本陣の傍に入れば、このイベントを生き残れる事は確実でしょうぞ。特別ミッションで欲に目を眩ませるなど笑止千万。それに、今は我らが軍に風が吹いてます」


「流石は天才軍師殿。目先の功に惑わされず、戦局の先々まで見渡す広い視野をお持ちですな。更に万が一にでも反逆者達がこちらの本陣まで辿り着いたとしても、ここまで達するのに相当の体力を消耗しているはず」


「ならば、我らでも容易く討ち取れると。流石は天才軍師殿ですな」


「いやいや、『ショカツ』殿程では」


「ご謙遜を。『コウメイ』の名を持つ貴方が私より下とは思えません」


「「ハッハッハッハッ」」


「どうでも良いけど、億が一の事考えて、身構えておいても良いんじゃね?」


「億が一と!?」


「そんな事まで考えてるなんて流石は『亮』殿!天才軍師!」


「いやいや、天才でも軍師でもねーから・・・あんたらが俺のPN見て半ば無理矢理クランに入れたんだろ・・・」



彼らは『ショカツ』、『亮』、『コウメイ』。

クラン『諸葛亮孔明同好会』所属のプレイヤーである。

亮を除く2名は三国志で活躍する軍師、諸葛亮のファンであり、軍師になりきってプレイするエンジョイ勢であった。


「ですが、亮殿の見解もごもっとも。戦場では常識が通じないのが世の常でありますゆえ、敵の襲来に備えるに越した事はありませんね」


「確かに。では私が占術にて吉凶を占ってみましょう」



コウメイが索敵魔法を詠唱する。


「ーー世界を暴け!『天の観測者』!」



長い詠唱を紡ぎ終わると同時に、彼の前方に魔法陣が展開し、その上に3Dの精巧なマップが浮かび上がった。

通常の索敵魔法より高レベルな分、消費する精神力も詠唱にかかる時間も桁違いだが、それに見合った詳細なマップの表示と索敵ができる為、コウメイを含めた戦略家プレイを好むプレイヤー達にとっては無理してでも習得して使用したい魔法である。



「なるほど。ふう、まだまだ我が軍の本陣は安泰ですな・・・ん?」


精巧なマップ上で、この本陣が前線からまだ遠い事、両軍とも今のところ大きな進退が無い事を確認したコウメイは安堵のため息をつく。


しかし、すぐに異変に気付いて声を漏らす。


「どうしましたか?コウメイ殿?・・・むう、これは・・・」


マップを見たショカツも思わず唸る。


「亮殿。本陣へ伝令を。敵が来ます」


「あ?敵?こっちの本陣は安泰じゃなかったのかよ?まあいいけどよ。でも、来てるようには見えねえぞ?」


コウメイは亮に、敵襲来の警告を本陣へ伝えるよう指示した。

退屈しのぎに剣の素振りをしていた亮は疑問符を浮かべながらも承諾する。


「・・・いや、申し訳ございませんが伝令は撤回します。間に合いません」


「え?だから来ているようにはーー」


「上空からでございます」



亮の疑問にコウメイが答え終わるか終わらないかのタイミングでーー


上空から急降下してきた何かが少し離れた本陣へと斜めに突入し、直後、多くのプレイヤーと砂煙が勢いよく舞い上がったのを亮はその目で目撃した。

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