第84話 幕間 佐々木小次郎
PAOにおける飛行手段はスキル(飛行型モンスターの召喚・テイム含む)、特殊武器・防具、大型(小型)飛行機械など複数存在する。
ただし、ヒノモト各国が保有する移動・観光用飛行機械は別として、いずれの飛行手段も希少な存在であり、特にスキルについては、数千万人のプレイヤーが存在しているに関わらず、両手で数える程の数しか確認されていない激レアスキルであった。
その為、多くのPAOプレイヤーはPVPにおいて、空からの奇襲についての警戒が不十分であった。
そもそも、戦争していた時代ならともかく、現代日本において、日々の生活の中で頭上から攻撃されるなど皆無に等しいので仕方ない事であるが。
特に大規模PVPイベントとなると地上の敵で手一杯になるので、余計に失念する。
「・・・見つけたぜぇ」
西軍のプレイヤー、『
彼のオンリーワンスキルは『
そのスキルは時間と回数制限があるものの、プレイヤーに脅威的な上昇力、滑空力、急降下力を持つ翼を与える。
特に急降下時の速度においては、他の飛行スキルの追随を許さない。
「敵司令官なんてどうでも良い・・・黒騎士ぃ、お前を必ず仕留めてやる!」
幻翼は恨みのこもった声音で
ちなみに彼と
幻翼が一方的に黒騎士を敵視しているのだ。
それは彼の目立ちたがり屋な性格が起因していた。
PAOを始めるにあたり、多くの者は考えた。
オンリーワンスキルは本当にランダムなのか?
実は隠し要因があるのでは?
体格の設定が影響している?
デバイスの登録情報(本名や居住地など)が影響している?
キャラクター設定中の思考が影響している?
等々、サービス開始直後から様々な憶測が飛び交い、そして、検証される事となった。
中でも一番検証されたのが、『プレイヤーネームの影響』であった。
例えば『氷鬼』や『ブリザード』など、『氷』の文字を入れたり、氷を連想するネームを付けると氷系のスキルを得られるのでは?という
結果として、プレイヤーネームの影響を含めた全ての検証は失敗に終わった。
つまり、オンリーワンスキルは宣伝通り完全にランダムであった。
同時に、強スキルを得た者は周囲から羨望(あるいは嫉妬)の眼差しを向けられ、一目置かれる存在となる事が確定した。
幻翼こと『
(俺って超勝ち組じゃん!)
空がPAOを始めたのは今年の4月からであり、既に数々の検証は終了して、スキルが完全ランダムである事も周知されていた。
だから、彼が『幻翼』をプレイヤーネームにしたのも、ただの気まぐれであった。
それがまさか激レアである飛行系、しかも翼の名を持つスキルを得る事が出来ようとは。
(ヤバいな〜、俺超有名人になっちゃうじゃん♪)
飛行系スキルを持つ翼の名を持つプレイヤー。
有名にならない方が不思議なくらいの強運に、目立ちたがり屋な彼の自尊心は膨れ上がる。
そして、幻翼の思惑通り一部で有名になった。
そう、一部で。
「こんなはずじゃ・・・俺はもっと有名になっているはずなんだ・・・!」
幻翼は眼下の怨敵を睨みつけながら、強襲タイミングを
彼は知名度を
故に、自分が有名になる機会を妨害した存在を許さなかった。
全く同じタイミングで現れ、同じく一部で話題となっている黒騎士達を。
(イベント中は不正防止で個人配信出来ないのが残念だが、きっと大勢が俺を注目しているし、このまま黒騎士をぶちのめす場面を見せつけて、あいつらの人気をかっさらってやる!)
都合の良い算段をしながら旋回して黒騎士達を見下ろしていると、黒いローブを着たプレイヤーが周囲から少し距離をとり、魔法陣を展開したのが見えた。
(今だ!)
黒騎士達の意識もそちらに向いていたようなので、周囲への警戒が疎かになったと判断した幻翼は、憎き黒騎士の1人、ユウに狙いを定めてダイブした。
翼を折りたたみ、右足を槍の如くつま先から一直線に伸ばした状態で急降下する。
ー ビュォオオオオオオ! ー
視界がぼやけ、風を裂く音で何も聞こえない。
それ故に一度急降下すると目標への微調整がきかない。
何もこんな状態までリアルに再現しなくてもと幻翼は思う一方、飛行スキル随一とされる速さを実感できるので悪い気はしなかった。
実際、その急降下速度は凄まじく、たとえ急降下中に気付かれたとしても、並の敵であればろくに反応も対処も出来ないまま、接近を許してしまう事になる。
更に、武器など振るわずとも急降下の勢いのまま、ただ相手の身体を踏み突けるだけでHPバーを散らせる程の威力を持つ。
絶対の自信を持つ必殺技。
ただ、幻翼は黒騎士を意識するあまり、失敗を犯してしまった。
いや、失敗ではない。
知らなかったのだ。
プレイヤーでない存在、指揮官NPCである
ー ゴォオウ! ー
「!?」
黒いローブを着たプレイヤーが魔法陣を展開した直後、周囲の風が吹き荒れる。
「はっ、こんなもの!」
僅かに身体の揺らぎはあったものの、既に速度のついた急降下はブレず、暴風を切り裂き、黒騎士へと迫る。
怨敵を倒すまであと少し。
「狩っーー」
その時、勝利を確信した幻翼の耳に聞こえないはずの声が聞こえた。
ー 燕より
ー ヒュオッ ー
次いで、風切り音と共に四肢の感覚が突如消え、その事に戸惑う余裕もないまま視界が暗くなりーー
幻翼の野望は叶わないまま、光の粒子となって人知れず戦場から退場した。
「ーー憂いを吹き飛ばすわ・・・って、あれ?小次郎さん、いつの間に武器を持ってたんですか?」
ユウ達から少しだけ後ろにいた佐々木小次郎は、約1mの刀身を持つ愛刀を手に持ち残心を保ったまま微笑む。
「何、鬱陶しい羽虫を駆除しただけだ。私もこの『物干し竿』で戦場を斬り開こう」
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