第83話 覚醒のメロア
イベント開始から1時間30分経過し、戦いは後半に差し掛かるも戦況はいまだ拮抗している。
多くのプレイヤーがイベント勝利側、更に個人成績を上位にあげる為、敵軍はもとより、味方の誰よりもポイントを多く獲得し、抜きん出ようという思惑が渦巻く現状で、ポイント倍の告知は渡りに船であった。
「メロアって奴を倒せばポイントが倍!?」
「もし俺1人で3人全員倒したら2倍4倍・・・8倍!?」
「???って誰だ?バグか?」
「私知ってる!黒騎士だよ!」
「黒騎士?ならPNは黒騎士じゃないのか?」
「黒騎士は通り名で実際のPNは分からないらしい」
「ほう、つまりバグを利用しているかレアアイテムを所持している訳ですね」
「でも、???は2つあるし・・・やっぱりバグじゃないの?」
「聞いた話やけど黒騎士は複数人いるらしいで」
告知の直後から、東軍西軍関わらず至る場所でポイント倍の話題が湧き上がった。
なお、不幸な事に『???』=『黒騎士』という情報だけが先行して広がり、『騎士(黒)』と『ブラック✝︎ナイト』の2名が早々と狩られた。
あと、『ぶらっく内藤』もほぼ同時刻に討たれたが黒騎士情報との因果関係は不明である。
このように多くのプレイヤーはユウ達の存在を知らない為、ポイント倍対象プレイヤーの情報に右往左往するが、中には過去遭遇したプレイヤーもいる訳でーー
「メロアを倒せばポイント倍だってさー!」
「ああ、あんな雑魚すぐに殺れるし楽勝だろ」
「他の奴らはメロアの顔を知らないはずだし、ポイント倍獲得の瞬間を配信できるチャンスだ。なあ、ジン?」
『☆さな姫★』は面白いオモチャを見つけたように笑い、『コウキ』は見下したように嘲笑し、『ミカエラ』は多量視聴を思い浮かべてニヤつく。
そして、話を振られた『ジン』はーー
「ああ、それに『黒騎士』を殺す瞬間もな・・・奴らは俺が焼き殺してやる。この煉獄の炎でな!」
愛用の片手剣にどす黒い復讐の炎を纏わせて、メンバーで囲んでいた1人の敵軍プレイヤーを一刀両断する。
ー ゴォオオオオ! ー
「ぐぅうううーー」
斬られたプレイヤーは激しい黒炎に包み込まれ、為す術なく光の粒子となって消えた。
粒子を踏みにじるようにかき消してジンは暗く笑う。
「コイツみたいにボロカス炭にしてやるぜ、黒騎士ぃ」
こうしてジン率いるクラン『ヘルフレイム』は明確な敵意をユウ達に向けて動き出した。
「わ、私だけPNが・・・2人ともズルいよぅ」
「ま、まあ良いじゃないですかメロ先輩。人気者になれますよ!」
「そ、そうですよ!それにクランメンバーの仲間募集の宣伝にもなりますし」
「ううう・・・」
復讐鬼が居るとも知らず、当の3人は呑気に談笑していた。
「でも実際、今の戦況でポイント倍は魅力的だから、敵はもちろん味方からも攻撃されるよな」
「そうだね。護衛NPCも敵だし・・・というか全員敵だね」
「それで司令官を連れて敵司令官の所まで突撃か・・・厳しいな」
「私のスキルがみんなにあれば良いんだけどね・・・」
ニカの『一角獣ユニコーンの乙女騎士』なら、たとえ大軍で待ち構えられていようと一直線に突破できるが、生憎スキルはオンリーワンなので、ないものねだりに過ぎない。
ユウとニカは来るべき包囲網の突破方法を唸りながら考える。
そんな2人の悩んでいる姿を見たメロアはーー
「スキル・・・私のなら力に・・・よしっ」
いじけるのを止めて少し思案した後、意を決したように小さく呟き、いつになく真剣な表情でユウ達に突破方法を提案した。
「あ、あの!私のスキルでグリフォンさん達を召喚するからみんなで騎乗して行くのはどうかな!?」
「っ!せ、先輩?あ、えっと、イベントフィールドでも呼べるんですか?」
「スキルだし大丈夫なはずだよ!ただ、何が起きるか分かんないから、魔力をなるべく温存したいし、呼ぶのはリーダーさんとあと1頭だけにするね。心もとないかもしれないけど、遠距離攻撃できる人は少ないと思うし、そもそも空からの奇襲なんて誰も想像出来ないから発見されにくいはずだから・・・うん、きっと上手くいくよ!」
「んん?」
「そして、武蔵さんを見つけたら急降下して、グリフォンさん達と一緒に周囲の人達を一気に倒そう。人が減ったら私とリーダーさんで風の結界を張るから、ユウ君とニカちゃんで露払いしながら小次郎さんと武蔵さんの2人で話せる状態を作ってね!」
(((メロ)先輩が大声でまともな戦略を・・・!))
緊張のせいで説明が終始大声だったのと、提案された作戦が問題ないどころか、今の状況では最良であった事にユウ達は驚く。
「こんな作戦でどうかな?・・・ねえ?・・・聞いてる?」
「っ!す、すみません!」
「ご、ごめんなさい!」
メロアの普段とのギャップにユウとニカが呆けていると、半目になった彼女が2人に突っ込む。
「んんっ、とても良い作戦だと思います。でも、先輩は良いんですか?更に目立ってしまいますよ?」
「私も賛成だけど、協力なスキルだし嫉妬されるかもしれないですよ?」
咳払いして気持ちを切り替えたユウはメロアが立てた作戦に賛同するも、1つの心配事を唱えた。
同じくニカもメロアを心配する。
2人の気遣いを感じたメロアは一度微笑み、改めて真剣な表情を作った。
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。乙女の夢の為だもん、いつまでも恥ずかしがってる場合じゃないよ。それにね」
そこで一旦言葉を止めたメロアは数歩下がり、彼女しか知らない魔法を紡ぐ。
「
ー ゴォオウ! ー
メロアの詠唱に呼応して2つの魔法陣が浮かび上がり、周囲の風が吹き荒れた。
荒れ狂う風は次第に形を持ち、やがて2頭の
「私が契約者になったのは友達の力になる為なの。そして、今がその時なの。だからね、今こそこの力を使ってみんなの憂いを吹き飛ばすわ」
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