第82話 反逆ルート
「ユウくーん!うちの司令官がセクハラされてるよー!」
ニカは自軍の司令官NPCを背に庇いつつ大声で叫ぶ。
ハラスメント問題はいつの時代も取り上げられ、世間を騒がせている。
故に、
そして、それは完全な隙である。
「セ、セクハラちゃうわ!」
「何もしてねえし!」
「おい!ちょっ!」
口を揃えて事実無根である事を訴えかける中、彼らの声に応える訳でもなく、ニカは司令官NPCを抱き上げ、自慢の脚力を以て瞬く間に前線から離脱していった。
「・・・え?何これ?」
セクハラ扱いされた挙句、終始放置されたプレイヤー達は唖然として固まった。
「・・・え?何これ?」
奇しくも敵軍のプレイヤーと同じセリフを呟いたユウは今の目の前の状況を理解しようと頭を働かせる。
メロアの強化魔法を一身に受けたニカが前線まで突撃したのは打ち合わせ通りだ。
大声でセクハラ報告があったのは予定外だ。
司令官NPCをお姫様抱っこしてきたのも予定外だ。
安全圏まで無事に撤退できたのは打ち合わせ通りだ。
なんだ、打ち合わせ通りだし問題ないじゃないか。
途中、気になる点があったが、司令官NPCを無事に救出でき、結果オーライなので気にしない方向に決めて、ひとまず救出作戦成功に安堵した。
「お、お姫様抱っこ・・・と、殿方にもされた事ないのに・・・」
ニカの腕から開放された味方の司令官NPCが赤く染めた頬に手を当てて何やら呟いている姿も見なかった事にした。
「司令官殿、私達は貴方の味方です。しかし、離れた所にいたので、作戦が伝わってきていませんでした。貴方が前線にいる事も作戦なのでしょうか?」
ただ、安全圏と言えども戦場にいる事は変わりなく、悠長にもしていられないので、ユウは自軍の司令官NPCである『佐々木小次郎』に前線にいた経緯を尋ねた。
小次郎は先程のお姫様抱っこが効いたのか、前線であった取り乱しもなく、落ち着いた様子で答える。
「いや・・・まずは助けてくれた事に感謝する。ありがとう。そして、すまない。司令官として有るまじき姿を晒してしまった。私が前線にいたのは完全な私情だ。その挙句、醜態を晒してしまい、討たれる寸前までいってしまった。いや、あの場で討たれても良かったと思ってしまった」
「セクハラ集団に囲まれて結構ギリギリだったんだよ。ユウ君褒めて〜」
「(セクハラ集団に討たれる???)ニカさんありがとう」
「うふふ〜」
前線を間近で見ていないユウは状況が分からなかったので、頭の中は疑問符で埋めつくされていたが、救出してきたのは事実なのでニカの望むままに褒めた。
「貴女に助けられた今、冷静になると浅はかな選択に怒りしか込み上げてこない。不必要な状況下で危険に晒させてしまった事を心からお詫びする」
小次郎は己の行いを悔い、唇を噛み締める。
「まあ、無事で何よりです。それより、危険と分かりながらも前線に行かないといけない程の私情とはどんなものですか?差し支えがなければ教えてください」
彼女の言う『私情』にイベント攻略のヒントがあると考えたユウは、踏み込んで尋ねる。
「なに、大した事ではない・・・甘い夢を見た1人の女が夢から覚めて現実を知っただけだ」
「何ですかそれ!大した事ですよ!」
「「っ!」」
よく分からない答えにユウが再び質問を口にする前に別の人物が強く反応した。
おかげでユウと小次郎はビクッとなる。
「全ての女性には、女の子には夢を見る権利があるんですっ!」
強く反応した人物、漆黒のローブを着た少女、メロアはフードがめくれている事も気にせずプリプリと憤る。
なお、ニカも腕を組んでうんうんと頷き、メロアの言葉に同意していた。
「聞かせてください!女の子の夢を奪った元凶は誰ですか?」
「あ、ああ・・・それはーー」
さあさあと鼻息を荒くしたメロアに詰め寄られた小次郎は、その様子に気圧され前線で絶望していた経緯を説明する。
「よしっ!それならもう一度、武蔵さんとお話しましょう!」
小次郎の話を聞いたメロアは開口一番、力強く進言した。
「あ、いや・・・もう後方に下がっているかもしれないし、多くの護衛に守られて近付く事が困難なはずだ。それに・・・私の部下達もきっと妨害するに違いない」
「なら、立ちはだかる者全員倒せば良いんです!」
「それでは貴女達がまた危険な目にあってしまう」
「大丈夫です!それに女の子の夢は何人たりとも妨害する事はできません!」
小次郎の危惧や心配も跳ね除け、メロアは握りこぶしを作り力説する。
若干目が据わっており、暴走している気がするが、ニカも
ユウも普段のメロアからは想像もできない凄みに当てられ唖然としていたが、今後の方向性が決まりそうであったので、頭を働かせて小次郎に確認をとる。
ユウとしても、小次郎の話から敵軍の司令官である武蔵と1対1で対面させた方がイベント攻略に近付くと考えていた。
「相手の護衛の強さ及び、貴女の護衛の強さはどれ程か分かりますか?」
「あ、ああ。敵軍の護衛も私の護衛も私達程ではない。特に私の方は護衛というより監視の意味合いの方が強いから一般の兵より少し腕が立つくらいだ」
小次郎はメロアの熱意から解放され、ほっとした表情を見せるものの、すぐに表情を引き締めてユウの質問に答える。
およそ彼女も以降の作戦の流れを理解しているのだろう。
「なら、俺も先輩・・・メロアさんの進言に賛成します。女の子の夢の話は置いておくにせよ、このままでは時間も軍もただ浪費していくだけです」
「私もメロ先輩やユウ君に賛成です。それに同じ女の子として夢についても叶って欲しいです。いえ、叶えさせます」
「ゆ、夢の話は今は良いとして・・・武蔵や敵軍はもちろん、自軍についても問い詰めたい事があるし、それに、やはりこの無駄な戦いを終わらせる為に、彼と再度対面する事が必要かと思う。本当は安全な作戦を練りたい所だが・・・時間も限られているゆえ、また危険な目に合わす事になり申し訳ないが協力をお願いしたい」
決意した表情で小次郎は頭を下げる。
その直後、ユウ達の前にシークレットミッション発見を知らせるウインドウが表れた。
ミッションの内容は
成功した場合は大量のポイントを獲得でき、失敗した場合のペナルティはないとの事であった。
ミッションに参加するかどうかの選択肢に、もちろん『参加する』を押してユウは応える。
「もちろん協力します」
「私も!」
「私もですっ!」
ニカとメロアも迷いなく参加ボタンを押したようだ。
即答した3人に小次郎は苦笑しながらも感謝の言葉を述べ、そして、最終確認を行う。
「ありがとう。ただ・・・これは軍としての動きではなく、私個人の意思での動きだ。敵軍はもちろん、自軍や私の護衛からも反乱分子として攻撃される可能性が高い。それでも共についてきてくれるか?」
「探しましたよ!佐々木様!」
その直後、小次郎の護衛らしき兵が近付いてきた。
その数3名。
タイミングと人数からして、イベント戦闘の一環のようだ。
「御無事でしたか?」
護衛達は心配そうな声音で気遣う素振りをみせるが、当の彼女は表情を硬くして俯くばかりである。
その様子を見て、ユウ、ニカ、メロアの3人は互いに頷き合った。
「ご苦労、傭兵諸君。これからは我らが佐々木様の護衛を務めるから、お前達はまた戦場にーー」
ー ガシュッ! ー
ー ドガァッ! ー
ー グシャッ! ー
先手必勝とばかりに護衛兵が言い終わらないうちにユウ達は各々の武器で攻撃する。
三者三様の衝撃音が鳴り響き、護衛兵の1人の首と胴体が離れ、また、別の1人は胸に大穴を穿たれ、そして、最後の1人は上から押し潰されたかのように地面へめり込み、ひしゃげた。
彼らの光の粒子を霧散させながら、ユウ達は小次郎の最終確認に答える。
「俺達は『契約者』です。誰が相手であろうと一度出した答えは揺るぎません。ってか先輩の攻撃エグいですね・・・」
「悪目立ちする事は契約者になった瞬間から覚悟の上です・・・地面にめり込んだ時、操り人形みたいに手足がグニャグニャしてたね・・・」
「あっ、あっ、みんなそんなに引かないでよ〜。『風の槌』は本当はここまで強くないんだけど、アルストームさんと契約したから風魔法の威力が上がったの。それと・・・わ、私は目立つの苦手だけど、みんなと一緒なら・・・大丈夫ですっ」
「あ、ああ・・・貴方々は契約者だったのか。頼もしい限りだ。改めてよろしく願う」
小次郎が一瞬ドン引きした表情を見せたのは気のせいだろう。
こうして、ユウ達3人のイベント攻略に繋がるシークレットミッションが開始された。
「ユウ君っ!ついに私達の名前も有名になるね!」
「このミッションが成功したら確実にイベント上位だもんな。まあ『黒騎士』としては少し有名になってたみたいだけどな・・・って名前?」
「目立つのは怖いけど・・・ユウ君やニカちゃんの名前と一緒に有名になるなら、ちょっと嬉しいかも」
「名前・・・何か引っかかるな・・・あっ!正体隠しの効果はーー」
どうなるんだろう。
そんなユウの疑問は今しがた届いた一通のメールが解決する。
『緊急報告。東軍より反逆者が発生しました。反逆者は味方の護衛兵を襲い、司令官を人質にしています。
なお、反逆者である「???」「???」「メロア」の3名のうち1名ごとに、倒したプレイヤーの総合ポイントが倍になります。
それでは、引き続きイベントをお楽しみ下さい。
運営より。』
「・・・・わ、私だけ名前が出てる・・・」
「・・・」
「・・・」
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