第80話 混戦
「はぁあああ!」
ー ヒュォオン! ー
ー ジュゥウウウ! ー
「ぐっ!?」
「このっ!」
ー ジュッ! ー
「なっ!?剣がーー」
ー ジュォオオ! ー
ユウが振るった愛剣は敵の鎧ごと熔かし斬り、敵が振るった武器は、灼熱の鎧によって阻まれて熔かされ、返す刀で為す術なく両断された。
スキルに制限時間があるユウは1人でも多く敵を倒そうと暴れ回る。
即席の陣形こそ成り立ったものの、特に訓練した訳でもない敵軍のプレイヤー達は、ニカの突撃によって簡単に浮き足立ち、更にスキルを発動したユウの斬り込みによって中央の陣形は崩壊した。
そして、ユウ達の衝突を皮切りに、至る箇所で両軍がぶつかり合う。
突撃に成功し、周囲の敵を蹴散らす集団がいれば、スキルで突撃を阻まれ、返り討ちにあう集団もいた。
ユウ側の陣営は、プレイヤー主体での全体的な指揮命令系統が存在せず、事前打ち合わせもろくにしていない烏合の衆であった為、敵側のまとまりある
また、ユウ達がいるイベントサーバーはランダムながらも両陣営の総合的な戦力は拮抗しているようで、戦況は次第に乱戦へと移り変わっていった。
イベント開始から約30分経過。
戦場は混戦を極め、敵味方が入り乱れた状態ではどちらの陣営が有利か不利かなど一目では判断がつかない。
スキルが切れて黒鎧に戻ったユウは現在、メロアがいる位置まで後退し、時折来る突出してきた敵を剣で沈めるといった護衛の真似事をしつつ、戦況を確認していた。
「マップも広いし人数も多いから、少し離れた程度じゃ分からないかー・・・」
マップを確認したユウはボソリとぼやく。
何せ今回のイベントはNPC兵含め、前回より多い3万VS3万の
更に現在は入り乱れての混戦状態。
マップを見る限り、味方の数はまだまだ多いが、視線の先にある戦いを見れば、それは敵も同じだという事が窺える。
「先輩、索敵の魔法で戦場全体を探る事って可能ですか?」
「んー、『精神力』のステータスが高かったら索敵範囲も広がるんだけど・・・私じゃまだまだ足りないの。ごめんね」
「いえ、思い付きで言っただけなので気にしないで下さい。それに戦いに使う分を確保しとかないといけませんしね」
時間経過と共に緊張が解けて落ち着きを取り戻したメロアは、ユウの質問に心底申し訳なさそうに謝る。
その様子にユウは苦笑しながらフォローする。
「でも、やっぱり3万対3万は多いですね。あちこちで戦ってるから、どちらの軍が優勢か劣勢かも分からないですし・・・思い切って指揮官NPCを狙った方が良いのかもしれませんね」
もちろん指揮官NPCは桃太郎やアラジンのように『英敵』のはずである。
だが、乱戦の中、いつまでも右往左往しているよりかは、直接戦うまでいかなくても、敵軍の指揮官NPCを確認して今後の動き方を決めた方が優勢になる可能性があるのではないか。
そう考えたユウはメロアに提案する。
「先輩、ニカさんも連れて敵の指揮官NPCを探しましょうか」
「指揮官NPCさんって絶対強いよね?・・・だ、大丈夫かな?」
「まずは遠目から確認するだけなので安心して下さい。それに・・・何かあっても俺とニカさんで絶対に先輩を守りますから」
「右に同じですっ!」
いつの間にか傍までやってきたニカも同調する。
「混戦だと味方にも攻撃が当たっちゃうから苦手だし、ちょっと休憩しにきたー」
PAOは基本的にFF《フレンドリーファイア》が設定されている。
ニカの戦闘スタイルは突撃による一撃離脱。
その性質上、突撃線上にいる多くの者を相手取れるが、小回りが利かないので、線上にいる味方も巻き込んでしまうおそれがある。
それ故に、彼女の攻撃は混戦に対して不向きであった。
「向こうみたいに始めに突撃できてたら、もっと敵を倒せてたのに・・・こっちは誰も指示を出す人がいなかったんだよね」
現在、思うように戦えないニカは愚痴をこぼす。
そして、ふと気になった事を口にした。
「指示といえば・・・こっちの指揮官NPCはどこにいるんだろうね?」
「確かに・・・相手側の突撃や混戦に気を取られて確認してなかったな」
『指揮官』という重要な立場だから護衛に守られて安全な後方にいるに違いない。
そんな先入観があったから、気にしていなかったという面もある。
念の為に味方の指揮官NPCを探す。
重要なNPCなのでマップ上では特別なマーカーで表示されており、すぐに発見する事ができた。
予想通り多くの味方に守られているようだ。
ただ、予想外なのは指揮官NPCが現在いる場所。
「あれ?なんで前線にいるんだ・・・?」
そこは先程確認した時にはいなかったはずの前線であった。
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