第79話 突撃

「先輩!敵軍の形分かります!?」


「全体は分かんないけど私達の前は分厚くて尖ってる感じだよっ!」


「分かりました!ありがとうございます!・・・横一列って訳じゃないんだな」


ー ドドドドォオオオ! ー


個々の影が認識出来る程の距離まで敵軍が迫りくる中、少しでも情報を集めようとユウはメロアに索敵の状況を訊ねた。


『魚鱗の陣』


中心が前方に張り出して両翼が後退した、魚の鱗のような逆三角形の陣形であり、中心が分厚く一点突破攻撃に特化している。

敵軍も事前に相手側の中央部を索敵しており、その付近にユウ達、キュロの騎士団がいる事を把握していた。

そして、彼らが少し孤立している事も。


『黒騎士』、『キュロの騎士団』の存在は少々悪目立ちしており、且つ、前回のイベントをみれば倒せない存在でもない。

特に孤立している今、突破口として最適な箇所であり、少しは名の知れた黒騎士達が早々リタイアすれば、他のプレイヤーに与える衝撃や混乱も大きいはずである。


そう判断した敵プレイヤーの1人は他のプレイヤー達と指揮官NPCに掛け合い、本陣形で攻める事に決めた。

もちろん、NPC兵を除き、ぶっつけ本番の急造な集団なので、足並みがバラバラであったが、数の暴力はそれだけで相手側に重圧を掛ける事が出来る。


なお、魚鱗の陣は攻撃特化ゆえ、後方からの攻撃や不意打ちに滅法弱い。

もちろん、ユウ達は陣形の知識など皆無であり、敵が既に目前まで迫る今では、不意打ちも出来ようもない。


だから



どんな状況でさえ、ユウは堂々と『黒騎士』の戦い方で迎え撃つ。


「分厚いならいける!ニカさん!俺足止めするから!」


「っ!分かった!メロ先輩!」


「え?きゃっ!」


以心伝心。

言葉少なくともニカはユウの考えを理解し、メロアを抱き抱えた状態で瞬時に数十メートル後方へと退いた。


火竜フレアドラ炎鱗スケイルコート!」


ニカが後退したと同時にユウはスキルを発動する。

そして、一瞬だけ目を瞑る。

その間に極限までイメージする。


自分は竜。

右手に握っている愛剣オーバーコートは自分の雄々しい爪。

万物全てを熔かす大爪である。


リンとの地獄の特訓により、最近になり武具まで己の身体の一部として瞬時にイメージ出来るようになったが、その成功率は半分程であった。

更に敵が迫る中では、相当な緊張感とプレッシャーがかかる為、成功率は更に低下する。


「出来る!出来る!出来る!よしっ!」


精神が揺るがないよう、あるいは自己暗示の為に、何度も呟き成功のイメージを固着させる。


ー シュゥォオオオオオオオ! ー


結果、ユウは重圧に打ち勝ち、土壇場で成功させた。


魔石狼オルタナにより強化された愛剣かりゅう刀身つめは黒から橙色へと変貌し、灼熱によって周囲の景色を歪ませる。

熱だけ伝達していた時よりも、桁違いの熱量が刀身へと注ぎ込まれる。


ユウは剣を一度、天高々に両手で振り上げ、そしてーー


大地を斬り裂くように、地面へとフルスイングした。


ー ジュォオオオオオオオオオ!! ー


焼け熔ける轟音と共に、刀身はまるで水を斬るように滑らかに地面を進む。


ー ドシャァアアアア! ー


そして、斬撃が通った大地は黒く熔解し、衝撃で土飛沫が吹き上がった。


「なっ!?」


「ぎゃっ!」


「な、何だっ!?」


突然吹き上がった黒い高波つちしぶきに、突撃してきた先頭の敵プレイヤー数名が呑まれ、熱ダメージを受けた。


「っ!?」


「と、止まれ!」


運良く呑まれなかった後方のプレイヤー達は、その光景を見て驚き、思わずたたらを踏んで足を止めてしまった。


ー ガシャン!ガシャン! ー


そこに勢いを止め切れなかった、更に後方のプレイヤー達がぶつかり、防具同士がけたたましく音を立てる。

転倒する者や、ぶつかった事で言い争いする者も出始めた。

ユウ達へと差し迫っていた突撃の勢いが止まる。


「前のイベントと同じだね。でも、今回はーー」


突風が吹き抜けると同時に、ユウの耳元でニカの声が聞こえた。

ユウの横をすり抜けて、勢いが止まった集団へと、お返しとばかりに突風となったニカが突撃していく。


ー ドガァガガガガガガガガ!! ー


敵を屠った証である光の粒子を纏いながら敵陣の中央を突き進み、縦断した。

あの時と同じように人波が真っ二つに割れる。


熱量を上げ橙色の鎧を纏ったユウは、敵陣へ斬り込む為に剣を構える。


「ああ、前と同じだな。でも、今回は・・・生き残ろう」

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