第78話 七夕の祈り

ユウ達3人がイベントフィールドに降り立つと、周囲にいた他の参加者プレイヤー達がざわつく。


「おい、あれってキュロの騎士団の?」


「ああ、黒騎士だ」


「マジでPN《プレイヤーネーム》が見えないな。本当にプレイヤーか?」


「前のイベントにも参加してたし、普通に会話した奴もいるからプレイヤーのはずだぞ。PNが見えないのは防具の効果らしい」


「レア性能の防具かよ。しかも2人もいるじゃねえか」


「あっちの黒騎士は話が通じないヤバい奴らしいぞ・・・。それに、傍にいる暗黒魔道士も」


「暗黒魔道士?」


「あの黒いローブ被ってる奴だよ。本当かは分からないけど、黒騎士達を何かの魔法で狂戦士バーサーカー化させて自分の護衛にしたらしい」


「え?何それ怖い」


「っていうか黒騎士ってプレイヤーだよな?狂化された時の人格ってどうなってんの?」


「あ、じゃあギルド名のキュロって魔道士の事か?」


「たぶんな・・・ん?いや、あいつのPN・・・『メロア』って表示されてるぞ」


「え?じゃあキュロって何だよ?」


「何だろう?」


「とりあえず全員ヤベェ奴っぽいから離れようぜ」


噂話をしていた周りのプレイヤー達はジリジリと後退り、よりいっそう距離を取られたユウ達はポツンと離れ小島のようになった。


「あ、あれ?皆さんが離れていくような・・・?」


「気のせいじゃないですか?別に俺達悪い事とかしてませんし」


「あっ!ユウ君と私、前のイベントで目立ってたから警戒されてるんじゃないかな?今回は同じチームだから気にしなくて良いのにねえ?」


幸か不幸かユウ達の耳に他のプレイヤーの会話は届いておらず、首を傾げるに留まる。


「出来れば周りの人達と作戦会議したかったけど・・・そろそろ始まりそうだな」


ユウは朝焼けで薄紅色に染まる霧と目に見えて水量が少なくなっていく大河の向こうを見据える。

イベントの事前情報では、その先に敵の大軍が陣取っているらしい。



今回のイベント名は『ナユの祈り』。


舞台はイベント専用フィールド『コウノガハラ』。


コウノガハラの中心には東西を分断するかのように『アマノガワ』が流れており、2つの小国がその大河を境界として隣接している。

近年まで両国は友好的な関係であったが、統治者が代替わりした途端、関係が急激に悪化し、現在では統治者同士、国同士が憎しみ合う程にまでおちいった。

普段は大河アマノガワが2つの国の憎しみや争いを物理的に止めているが、この大河は1年に一度、数時間だけ水が引いて、なくなってしまう。

そして、ある時から水引の時期が近付くと両統治者は軍を派遣し、数時間だけの戦争を行うようになった。


今回のイベントは、プレイヤーがどちらかの軍(東軍か西軍)の傭兵として参加し、制限時間内で敵側の戦力をより多く削った方、もしくは各軍に1人いる指揮官NPCを先に討った方が勝利する大規模なチーム戦となっている。


なお、主に時間的な理由で、さすがに参加プレイヤー全員が同じイベントフィールドで戦う訳にもいかない為、参加者は複数のイベント用サーバーにランダムに振り分けられる。

戦いの勝利側は報酬を多く得る事ができ、更に、チームとは別に個人でも順位が付くので、各サーバーの上位者には豪華な報酬が出るとの事である。


「ユウ君、ニカちゃん・・・真正面から来るよ!すごい数!」


「「はいっ!」」


索敵の魔法により、いち早く敵側の動向を掴んだメロアが注意を促す。

その声にユウ達は即座に反応し、己の武器を構え迎撃の体勢をとった。


「敵軍は突撃してくるつもりだ!ニカさんと先輩は俺の後ろに!迎え討ちます!先輩!防御魔法いけますか!?」


「分かった!」


「いけるよっ!」


ユウ達を魔法陣が囲い、3人は防御力上昇のエフェクトで煌めく。


ー ドドドドォオオオ! ー


幾分もしないうちにフィールドに地鳴りが響き渡る。

紅い朝霧の中に黒い波が混ざり始めた。

黒波の量は増え続け、左右に広がっていく。


黒波



敵軍はユウ達側の軍を飲み込まんと、アマノガワを越えて迫ってきた。

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