第77話 キュロの騎士団始動

リンとの特訓を終えた翌朝、大和はいつもの河川敷で日課である剣術の練習をしていた。


「ふっ!」


ー ヒュン! ー


仮想の敵が振る剣を、斜め前へ一歩踏み込み躱すと同時に、篭手盾のスパイクを相手の鳩尾みぞおちに突き刺すイメージで左手を突き出す。


「はっ!」


ー ヒュォッ! ー


更に間髪入れず腰を右に捻り、剣に見立てた傘で薙ぎ払った。


「ふぅ」


一通りの動作を終え、イメージの中の敵を倒した大和は一息つく。


「でも、アイツら相手ならまだまだだな・・・」


流した汗をタオルで拭いながら彼は独りごちる。

主に動作確認の為の特訓なので、仮想敵は弱く設定している。

例えるなら世の子ども達が毎週楽しみにしているであろうヒーロー番組に出てくる、敵の戦隊戦闘員程の強さである。


だが、大和・・・ユウが本当に戦いたい相手はその比では無い。

かつてイベントで相対した桃太郎やアラジン、また、アーサーといった他の契約者達。

彼らと互角に戦う。

それが今の大和ユウの目標であった。


「次のイベントもおそらく・・・よしっ!」


束の間の休息を終えた大和は気合いを入れ直して再び特訓に戻る。

近々、開催されるイベントに参加する為に。

そこで出会う強敵と互角以上に戦えるようになる為に。



時間は流れて、7月7日の午後9時。


ー ピンポンパンポーン ー


PAO内にイベント用の通知音が鳴り渡り、今回のイベントについてアナウンスが流れる。

ユウはアナウンスを聞きながら、目の前に現れたイベント参加の選択肢画面に触れ、躊躇ためらいなく『参加』を選択し決定ボタンを押した。

足元に魔法陣が浮かび、光に包まれて待機場所へと転移する。


転移した先はお馴染みの体育館のような空間。

なお、前回までは待機場所にユウ1人しかいなかったが、今回は他に2人いた。


「ユウくーん!こんばんはっ!」


「私イベントに参加するの初めてだから緊張します・・・」


ニカとメロアである。

同じクランに所属する者は同じ待機場所が割り当てられる仕様となっており、直前まで別行動していても簡単に集まれる他、イベント開始までの時間を使い、作戦会議や行動の打ち合わせが出来るといった利点がある為、プレイヤー達からは概ね好評であった。


「メロ先輩!大丈夫ですよ!私が守りますから!」


「俺も守ります。それにゲームなので失敗しても良いんですよ。気楽に思う存分楽しみましょう!」


「ありがとう、ニカちゃん。ユウ君。ふふ、ちょっと落ち着けた気がする」


「あはは、緊張し過ぎてクランを登録しに行った時みたいにならないで下さいね?」


「あ、あれは・・・ご、ごめんなさい・・・!」


「あ、あ!大丈夫ですよ!これはこれで可愛いからOKです!だから落ち込まないでっ!」


イベント初参加であるメロアの緊張を解そうと、ニカは冗談めかして言ったが、結果としてメロアを落ち込ませてしまい慌てて慰める。

そんな2人の様子を苦笑しながら見守っていたユウであったが、待機時間が過ぎイベント開始のカウントダウンが始まると、表情を少し引き締めた。


今までのイベントでは『契約者』ゆえか予想外の展開が起きていた。

おそらくだが、今回も事前に告知されている内容から変化するだろう。

そして、強敵も現れるに違いない。

これはゲームだから失敗や敗北しても現実世界で死ぬ事はない。

だが、やはり敗けるのは悔しい。


ー やるからには、楽しむには、全力で! ー


イベント開始まで30秒。


「ねえ、円陣組もうよ!」


「良いですねっ!気合い入りそう!ユウ君も良いよね?」


「もちろん。じゃあ、先輩掛け声お願いします」


開始まで20秒。

ユウ達はお互いに向かい合う。


「ふぇっ!?わ、私?」


「そりゃ、リーダーですからね」


「ううう、が、頑張る!」


「メロ先輩、ファイト!」


音頭を任されたメロアは気合いを入れて息を吸う。

開始まで10秒。


「キュロの騎士団!ファイオーっ!」


「「おーっ!」」


ー イベント開始 ー


足元に浮かんだ魔法陣から発せられた光に包まれ、クラン『キュロの騎士団』メンバー3人は戦場イベントフィールドへと降り立った。

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