第72話 風の繭

メロアを取り巻く風は激しさを増し、やがて『風の繭』となって彼女を包み込む。


(っ!ここまでか!)


ー ゴォウ! ー


一方、スキル発動時間の終わりを察したユウは、最後の一振りでドリューを後退させた後、自らもバックステップを踏んで距離を取った。


「っ!」


勘づいたドリューは逃がすまいとすぐさま追撃に移る。

直後、龍鱗スキルが切れ、鎧の色は赤から黒へと戻り、周囲の景色を歪めていた莫大な熱量は幻のように霧散してしまう。


「がぁっ!終わりだ!」


障害が無くなり、勢いを取り戻したドリューは大口を開けてユウへと迫る。


ー ヒュオッ! ー


その時、両者の死角からニカが姿を現し、突撃の勢いのまま、構えた突撃槍をドリューへと放った。


「これでも食べておきなさい!」


「ぐぬっ!」


完全に不意を突いた一撃は、巨大な口内へと侵入していき、そのまま頭部を貫通するかに思えた。


ー ガギィイイイイン!! ー


だが、ドリューは咄嗟に口を閉じて槍の先端を噛んだ事で串刺しをまぬがれる。


ー ズガガガガガガ! ー


ただ、突撃の勢いは殺す事ができず、4本の足で地面を抉りながら一気に十数メートル押し戻された。


「にゃっ!?っん!!」


ニカは渾身の突撃を防がれた事に驚きはしたものの、反撃される前にドリューの鼻面を蹴って距離をとり退避する。


人間しょくりょうごときが!・・・チッ。」


絶好の機会を妨げられた上に顔面を足蹴りされたドリューは忌々しげに唸る。


だが、攻撃には移らず、人間じみた舌打ちをして、ある一点を睨み付けた。


その間にもユウは後衛付近まで下がり、待機していたベルに回復魔法を施してもらう。


「ありがとう、ベルさん!」


「もちろん貸しやで〜。」


「戦いが終わったら払うよ。あと・・・それは、先、輩?」


油断なくドリューを警戒しながらベルに感謝を伝えたユウは、回復中に視界の端に映ってから気になっていたソレを横目でチラリとうかがう。


「ああー。それなあ。」


ベルもユウ同様、ソレを視界の端に捉えながらどこか楽しげに答えた。


「メロアちゃんもこっち側のプレイヤーになるかもなあ。」


ー ゴォオオオオ! ー


その直後、ソレ、メロアを激しく取り巻いていた『風の繭』は四方に突風を撒き散らしながら荒々しく解き放たれた。

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