第73話 幕間 吹き荒れる嵐の中で
吹き荒れる風が創り出す繭の中、メロアは先程の声の主である1人の騎士と相対していた。
「あ、あああの時の騎士さん・・・!?」
襟元に白いファーがあしらわれた黒茶色の
そう、メロア達がグリフォンの巣へ赴いた時、その中心で厳かに佇んでいた騎士であった。
相変わらずPNは表示されていない。
「へぅっ。あ、あなたは・・・な、何者なんですか・・・?」
メロアは改めて騎士の正体を問う。
足を震わしながらも勇気を振り絞って。
それ程までに、今の彼は出会った時の比ではない程の凄まじい圧を放っていた。
(これが特別なモンスター・・・)
契約者でない彼女は、特別なモンスターについて、ユウ達からその存在を大まかに聞いただけで、知識の方は全く持ち合わせていない。
それでも瞬時に分かった。本能が理解した。
ゲームであるのに肌がヒリつく感覚を覚える。
ドリューにも足が竦むほどの圧を感じたが、戦っていたのはあくまでユウであり、ドリューの意識もユウに向けられていた為、ここまでではなかった。
しかし、今は特別なモンスターと真の意味で相対している。
メロアの意識はグリフォンの騎士に向けられ、彼の意識もまたメロアに向けられている。
まだ明確な敵意を向けられていない事が救いであったが、それでも、物理的に身体を押し潰されそうな程の重圧が容赦無く彼女を襲う。
逃げ出したくなる気持ちをぐっと堪えて、彼女は騎士からの返答を待つ。
1秒にも満たない質問の間であったが、メロアにとっては気の遠くなる程の時間を感じた矢先。
「・・・残念ながら、
メロアの恐慌ぶりで毒気を抜かれたのか、騎士は苦笑しつつ答えた。
それに伴い、先程までの凄まじい圧が若干和らぐ。
「あ・・・。」
暴力的な重圧が薄まると同時に、雄々しく力強い圧がメロアを包む。
(これ・・・怖くない。)
彼女の中から騎士への恐怖が消え、更に、僅かであるが彼に守られているような気持ちが何故か芽生える。
それは、やんちゃな生徒を苦笑しながら諭す先生、もしくはどこか危なっかしい妹を見守る兄のような目線で騎士がメロアを見ているからだが、生憎、彼の表情は兜に隠れている為、メロアがそれに気付く事はなかった。
落ち着きを取り戻した彼女をみて、騎士は再度問い掛ける。
「お前は何故強さを求める?賞賛か?名誉か?それとも、優越か?」
現実世界でもゲームでも、強さを求める理由は千差万別である。
有名になりたい者、羨望の眼差しを向けられたい者、
残念ながら強さを正しく行使しない者も一定数いる。
そして、その煽りを受けるのはいつだって他者である。
ー 俺は、俺たちはあと何回討たれなければならない? ー
騎士は
それ故、他者を踏みにじるような、存在や役割を否定するような、己の快楽の為に力を行使する事を許さない。
ただ
「いいえ。そのどれでもありません。」
先程までのオドオドした様子からは想像できない、凛とした態度でメロアは否定した。
「そうか。では何の為にだ?」
騎士は知っている。
「みんなの力になる為にです。」
目の前の少女が
「ほう。
「はい。ニカちゃんやユウ君・・・そうですね。プレイヤーもですけど、グリフォンさん達もです。」
「そうか。」
グリフォン達と共に襲い来るプレイヤー達と戦い、傷付いた同胞を癒してくれていた事を。
「では、その意志は強さを得てもなお決して揺るぎないものだと誓えるか?」
メロアの目の前に『烈風の騎兵団に加入する』『はい』『いいえ』の選択画面が現れた。
「選択は一度きりだ。途中で抜ける事も途中から加入する事もできない。変わる己の力に怖気付く事も、後悔する事も許されない。」
だから、この問いはただの確認である。
「それでも、お前は力を求め、道を
ー ポチッ ー
「もちろんです。」
メロアは力強く答え、選択する。
【『はい』が選択されました。】
【『鷲獅子騎兵』の称号を獲得しました。】
「ここに契約は成立した。」
騎士も彼女の選択に力強く応える。
結果は分かっていた事だが、それでも喜びが騎士の鎧から漏れ出る。
「我が名は風騎士アルストーム。メロアよ、共に風となり戦場を駆け抜けよう。」
苛烈さが増す戦場の中、新たな契約者が誕生した。
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