第71話 曇り心に風は吹く
「す、すごい・・・。」
未だ残る羞恥で頬を染めながらも、
巻き込まれないよう安全な距離をとってもなお、戦闘の余波が熱風となって彼女の身体を叩く。
ユウが纏う暴力的な熱量によって周囲の景色が歪められ、彼が黄赤色に染まった剣を振るう度、切っ先に触れたものが溶解する。
対して、ドリューは大爪が熔け斬られた直後から回避行動に切り替えており、ユウの斬撃やその他の攻撃を避け続けつつ、攻勢への機会を虎視眈々と狙う。
ああ、私もあんな風に強くなりたい。
戦いを見守るメロアは憧れを抱く。
誰かを守る為に、誰かの力になる為に強く。
それが彼女の目指すものだから。
だからこそ
「メロ先輩!ベルさん!ユウ君を助けるの手伝って!」
いつの間にか傍にいたニカからの緊急要請を二つ返事で応える。
それがたとえ今の自分ではまだ踏み入るには早い
「ちょっと緊急だからベルさんにも教えちゃうけどーー」
ただ、その根底にはゲームといえどなるべく想い人を死なせたくないという気持ちと、彼なら話しても許してくれるだろうという絶対的な信頼があり、決して悪意は存在しなかった。
もちろん伝える相手も信頼できる者だからというのもある。
「ふぅん。まあ、前のイベントの時もチラッと見えたし。だいたい予想通りやなぁ。」
「じゃあ、そろそろスキルが解除されちゃうんだ・・・早く助けないと・・・!」
苦笑いするもスキルの弱点を深掘りしないベルと、単純にユウを案ずるメロア。
彼女達にも悪意は存在しなかった。
そして、今はユウのスキルよりも、この戦いを切り抜けるかに彼女達は意識を向けていた。
ドリューの討伐が困難であるにしろ、この戦場がグリフォンの巣である限り、撤退はできない。
そして何より、グリフォン達も既に大切な戦友となっている。
そんな彼らを見捨てられるはずがない。
ただ、戦況は厳しい。
現在、一見すればユウが優勢であるも、数十秒後には終わりを迎える。
ユウ、ニカ、メロア、ベル、そしてグリフォンリーダーが相手取るは特別なモンスター。
強力なスキルを有する契約者が数名いるとはいえ圧倒的に足らない。
そこらのボス級モンスターでさえ討伐するには大多数の人数が必要となるのに、ユウとの戦いで削られてもなお絶望的な量のHPバーを持つドリューは、どう見てもそれらを遥かに上回る存在である。
討伐する為には、数十、下手をすれば数百名規模の人数が必要だろう。
撃退でもそれに近い人数が必要となる。
撤退は論外。
更に
「ごめん!もう時間がないから私いくね!2人は援護魔法お願いっ!」
応援を呼ぶどころか、作戦を練る時間も与えられない。
それでもやるしかない。
メロアとベルに声掛けしたニカは突撃の準備をする。
準備は不十分、焦りもある。
だが兜下の表情に憂いはない。
想い人の隣に立って一緒に戦えるから。
「
ベルは面倒くさそうな口調とは裏腹に、好戦的な笑みを浮かべて魔女の箒に跨る。
そこには契約者としての自信と誇りがあった。
「あぅ、が、頑張らなきゃ・・・。」
やる気十分の契約者2人に対して、ごく普通のプレイヤーであるメロアの表情は優れない。
ユウ達の力になりたい。
みんなと一緒に戦いたい。
思いは強い。
だが、いざドリューと対峙しようとすると、本能が恐怖を抱き足が竦む。
後衛だと分かっているのに。ゲームだと分かっているのに。
聖女フォンデュの食いちぎられた姿、HolyKnightが虫けらのごとく潰された光景が頭をよぎる。
もちろんメロアも場数をそれなりに踏んでおり、プレイヤーやモンスターを倒す事も、逆に倒される事も経験済だ。
それでもなお一歩を踏み出せない。
ドリューを討伐するイメージは一切湧かず、
無惨に倒されるイメージは簡単に、次々と湧いてくる。
ゲームだから死んでも大丈夫だと頭では分かっているが、何故か本当の死を前にしているようで怖気付いてしまう。
それこそが暴食侯ドリュミラ。それこそが特別なモンスター。
その暴力的な
ああ、勇気が、強さが欲しい。
曇り心のメロアは切に願う。
堂々とドリューを見据えるニカ達の背を見て。
私もこうなりたいと切に願う。
そして、その願いの結末はーー
ー ビュォオオオオゥ! ー
ー 風を纏う少女よ、お前は何故強さを求める? ー
メロアを中心にして、突如巻き起こった突風の声に委ねられた。
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