第17話 報酬と出会い

始まりの街に戻ったユウは宿を借りて、ステータスやイベント報酬の確認を行った。


イベントやアフタヌーンティーに参加した為、現実時間リアルタイムは既に0時を回っていたが、次の日は日曜日なのでもう少し夜更かしする事ができる。



ステータス画面を開くと、イベントでNPCやプレイヤーを何人か倒したおかげでレベルが6から7へと上がっていた。


それに伴いステータスポイントも獲得していたが、どのステータスに振り分けるかは後日じっくり考えようと思い、今日は保留とした。


続いてイベント報酬を確認すると、クリア報酬金とユウが担当していたエリアの宝箱2つ、竜のお面、そして、一振りの野太刀であった。



鬼狩おにがり



シンプルな銘の野太刀はイベントで桃太郎が所持していた武器であり、ユウが火竜の右手で破壊したものである。


その破壊報酬として運よくドロップしたのだろう。


ユウは床に置かれた鬼狩を手に取り持ち上げようとしたがーー



おもっ!?マジか・・・」



どれだけ踏ん張っても床から数センチ上げるので精一杯であった。


武器情報を確認すると、使用条件に筋力【A】のステータス値が設定されており、ユウの現状では使用不可能であった。



使い道はまた考えるとして、次は宝箱2つを開けてみる。


出てきたアイテムは2つとも『玉鋼たまはがね』であった。


イベント限定アイテムであり、加治屋に持っていくと特別な武具を打ってくれるらしい。



最後に、イベント開始時から身に付けている竜のお面を確認すると、僅かな物理耐久と正体隠し(PN《プレイヤーネーム》とレベルの非表示)の効果が付いていた。



「鬼狩を使えないのは残念だけど、今回のイベントは面白いアイテムを手に入れられたな」



イベントで手に入れたアイテムを一通り確認し満足したユウはログアウトして、PAOの掲示板を確認した後眠りについた。



「ふぁー・・・ふぅ」



日曜日の午後、大和ユウはあくびをしながら買い物に出掛けていた。


好きな時間まで夜更かしして午前中いっぱい惰眠を貪れるのは独り暮らしの特権である。



大和はファッションに疎い為、買い物といえば専ら食料や生活用品、趣味の事に関してであった。


まだ完全には慣れていない街中を歩き、必要な物を揃えてゆく。


途中、古本屋に立ち寄り物色していたところ、気になる漫画を見つけ、少しだけ中身を確認して購入した。


『漫画で分かる西洋剣術』と題されたその本は、西洋剣術の歴史と武器、代表的な型が描かれていた。



「今のままじゃ騎士きしじゃなくて拳士けんしだしな」



大和は独り呟き、これも課金になるのかなと小さく笑う。


PAOでは、移動でも戦闘でも動作のアシストシステムは一切存在しない。


自由だと言えば聞こえは良いが、逆に言えば全ての動作を自身で行わねばならない。


通常の動作においては問題ない事柄であるが、戦闘においては割と困った事態になる。



戦い方が分からないのだ。



開発陣いわく、戦闘アシストシステムを導入すると、戦闘時の動作が決まってしまい面白くない。


また、自ら独自の動きを考えて試し、オリジナル流派、必殺技を創り楽しんで欲しいとの事であった。



それ故、大和ユウも片手剣を所持しているものの、あまり活用できず大半はスキル頼りになってしまっていた。


逆にスキルが戦闘系でないプレイヤー達は武器の扱いを研いているはずなので、スキルを使用できない状態で戦闘を行えば敗北は免れないだろう。


そこで、大和はスキルだけでなく武器の扱いにも力を入れようと考えたのだ。



「♪~」


ちょうど欲しかった内容の漫画を手に入れる事ができてご機嫌な大和は鼻歌を口ずさみながら、スーパーで食料を選んでいた。



ー トンッ ー



「あっ、すみませんっ」


「いえ、こちらこそ」



お惣菜コーナーで立ち止まり、品定めしていると隣から誰かがぶつかってきた。


慌てた様子で謝られたので、気にしていない旨を伝えて声の主を確認すると、地味だが素朴な感じの可愛い少女であった。



「あっ!」


「ん?」



少女の方も大和の顔を確認したようで、何故か小さく驚きの声をあげた。


その反応を訝しむ大和は、彼女が自分の記憶のどこかに引っ掛かっているのを感じた。



「あのユ・・・大学で助けてくれた方ですよね?」


「!、ああ、あの時の」



少女は何かを口ごもった後大和に確認を取り、彼もその言葉でようやく彼女の事を思い出した。


ついでに恥ずかしい思いも。



「あの時はついでしゃばってしまいました」


「いえ!本当にとても助かりました!ありがとうございました!」


「そう言ってもらえると助かります」


「私もお礼がずっと言えなくて・・・ようやく言えて良かったです」



お互い胸のしこりが取れ、自然と笑顔になる。


良い感じに気が緩んだ2人はそれから談笑に花を咲かせた。


お互い大学1年生であり、独り暮らしをしている事や、所属している学部、普段家でしている事など話題が尽きない。



気付けば世間のマダム達ばりの立ち話となっていた。



「結構時間が経ったな。そろそろ帰ろうかな」


「そうだね。夜ご飯作らないと」



雑談しているうちに敬語が取れた2人は、以前から友達であったような気さくな関係となっていた。



「それじゃ、また大学で会おう」


「うんっ。じゃあ・・・」



大和が別れを告げて、買い物の続きをしようと背を向ける。


少女も彼の背に手を振って応じたが、すぐに何かを決意したように小さく深呼吸をした後、すぐに大和を呼び止めた。



「あ、あのっ、結崎君・・・」




その日の夜、大和はユウとなってPAOにログインし、森にある泉の側で1人佇んでいた。


ジェネラルゴブリンの洞窟から離れている場所なので周りには誰もいない。



しばらく泉の中を覗き込んでいると、背後から声を掛けられた。



「こんばんは、ユウ君。買い物の時振りだね」


「・・・やっぱり君だったのか」



声を掛けてきたプレイヤー名は『ニカ』。


最初に遭遇した時はウサギのお面を着けていた彼女は今宵、素顔を晒している。


その顔は、今日買い物の途中で出会い、別れ際に大和ユウにこの場所に来るように促した少女と同じであった。

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