第16話 幕間 イベント終了とアフタヌーンティー

「騎士様、ではまた次の戦場にて」


「はい、こちらこそありがとうございました。」



生存者の確認や負傷者の救護に忙しいゴウキや鬼族との別れを簡潔にして、ユウは足元に浮かんだ転移用の魔方陣に乗りオニガシマから離脱する。


長いようで短かった三時間イベントが終了し、オニガシマで生き残った参加プレイヤー者は続々と元のフィールドへ帰還していった。


そこで、一足先に戻ったリタイア組や観客組と各々イベントの話で盛り上がる事は間違いないだろう。



もちろんユウはーー



「おっかえりー!あっ!お兄ちゃん少しだけ竜の顔つきになったね!」



自身のお姫様により誘拐インターセプトされ、例の廃神殿へと飛ばされたのであった。



「こうなるとは予想してたけど・・・段々慣れてきた自分が怖い・・・」



初めてこの地へ訪れた時こそ、驚き尽くしであったが、慣れてきた今となっては実家にいるような安心感さえも芽生え始めていた。



「ん?なになに?何か言った?」


「いや、何でもない。それよりも、リンが魔改造してくれたスキルのおかげで助かったよ」


「でしょでしょっ!わたしできるお姫様だし!」



褒められて(?)嬉しいのかリングレットは赤いドレスの裾をたなびかせニコニコくるくる回る。


また、リングレットは髪型を変えたのかポニーテールになっており、彼女の髪もドレスに合わて尻尾のようにふるふる風に舞っていた。


その姿はまるで、主人に褒められ喜ぶ犬のようであり、そこには姫の風格どころか竜の荘厳さなど微塵もなかった。



「それじゃあ、イベントお疲れ様の意味も込めてアフタヌーンティーにしましょうかっ」



ー ぱんぱん ー



ひとしきり踊り、満足したリングレットはティーパーティーの準備に取りかかる。


といっても手を二回叩いただけで、ユウ達の目の前にテーブルとイス、様々なお菓子と飲み物が入ったティーカップが現れた。



席についた2人は好きなお菓子を食べ、時折イベント内の出来事に花を咲かせ、楽しく穏やかな時間を過ごした。


今回はユウのねぎらいいだけが目的だったようで、ティーパーティーがお開きとなると共に別れの時間となった。



「あ~、楽しかった!お兄ちゃん今日はお疲れ様!そして、ありがとう!」


「こちらこそ。それにお菓子のお土産ももらったしな。」


「んふふ~、そのお菓子は美味しいんだよっ。あと、すっごい効果もあるし」


「効果?」


「お兄ちゃんの力が一時的に強くなるんだよ。ちなみに、さっきのお菓子もそれぞれ色んな効果を持ってたんだよ」


「そういや、食べてる最中シャキンシャキン効果音が鳴ってたような・・・」


「お兄ちゃんたら超鈍感!」



PAOには味覚感知機能が備わっており、付随して食事システムが存在している。


ただ、空腹によるステータス低下等のペナルティシステムは存在しない為、必ずしも食事をする必要がなく、現在PAO内において食事を行うプレイヤーはほんの一握り程度であった。



まさか食べ物の中に強化ドーピング効果を持つ物があるとは。



「効果があるお菓子はとっても高いんだから!」


「そ、そうなのか。ありがとう・・・大事に使わせてもらうよ」


「効果の持続時間は短いから注意してねー」



ユウは若干引きながらお礼を言う。


効果があるだけでとっても高いのなら、リングレットが言うすっごい効果な場合はどれだけお高いのだろうか。



「わたしからのイベント報酬だから気にしないでいいよ。じゃあ、次に会う時はもっと強くなってわたしのお願いを聞いてねっ。バイバイ、またね。わたしの騎士様」


「おう、またな」



ユウは手を振り、リングレットが用意した魔方陣の光の中のへと消えていった。



なお、PAO内やネットの掲示板では、今回のイベントについて敵が強過ぎてほんの僅かしか生き残れなかった事に関して、クソイベント扱いする一方、生き残ったイベントランキング上位プレイヤー達は称賛を浴び、一目置かれる存在となった。

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