第15話 決着は突然に

ユウとしてはイベント終了時間までこのまま膠着状態でいたかったのだが、桃太郎がそれを許すはずもなく。



ー ヒュッ ー



腰を落とし構えていた桃太郎の姿が突如、ユウの視界から消えた。



桃太郎が攻撃を仕掛けてきたのだとユウの思考が認識した時には、身を屈めた桃太郎が既に彼の膝元まで接近していた。


桃太郎は屈めた身体を勢い良く跳ね上げ、容赦なく脇差しをユウの顔目掛けて突き上げた。



「っ!?」



ユウは息を呑む以上の反応ができない。


脇差しはそのまま彼の顎下を貫きーー


ー キィイイイイン! ー


はしなかった。



脇差しでの攻撃は同じ鉄製の何かによって阻まれたようであった。


攻撃に失敗した桃太郎は第三者を警戒してか、すぐさま距離を取る。


ようやく思考が追い付いたユウは隣に誰かいる事に気付いた。



「大丈夫ですか、騎士様?」



その者は大鎧を纏い、手には桃太郎の野太刀と同じくらいの長さの棍棒を構えていた。



「先程はお見事でした。援護が遅くなり申し訳ありませんが、今よりお力添え致します」



鬼族の中でも上位に入る逞しい身体、力強い声。


その正体は族長のゴウキであった。


イベントの仕様なのか、何か条件を満たしたのか、本来の担当エリアである本陣から抜け出して駆けつけてくれたのだ。



ゴウキが加勢した事により、優劣が完全に逆転した。


さすがの桃太郎も分が悪いと判断したのか、再び攻撃を仕掛ける事なく脇差しを鞘へ納めた。



「どうした?桃太郎。お前が目的とする本陣は目の前だぞ?ここまで来て臆したのか?腰抜けめ!」



決着をつける為、ここぞとばかりにゴウキは桃太郎を挑発し攻撃を誘う。


武人であるゴウキ個人はお互い万全の状態で決着をつけたかったが、種族の存続を考えれば個人の感情など二の次であり、今こそ宿敵である桃太郎を討つ絶好の機会であった。



「私の目的は本陣ではなく、貴方達鬼族を全滅させる事ですよ、ゴウキさん。私も今日で決着をつけようと臨みましたが、愛刀を失ってはそれも叶わず。残念ですが今回も撤退させていただきます」



桃太郎の降参の言葉を合図に



ー ピンポンパンポーン ー



イベント開始と同じ通知音が鳴り響き、イベントが終了した事を知らせるメッセージが届いた。



のだが



「だからと言ってお前を帰す道理もない。正々堂々と戦えないのは不本意だが、我ら鬼族の為に今ここで散ってくれ」



ユウの眼前で流れる一触即発の空気は薄まる事を知らなかった。


NPCである彼らには先程の通知音もメッセージも届くとは思えず、それ以前にイベント自体とも無縁なのだろう。


彼らは本当にこの世界ゲームの中で生きているのだから。



ユウが思わず固唾を呑んだ時、事態が動いた。



ー ピィイイイイ! ー


ー ドシュッ! ー



桃太郎が突然指笛を吹き響かせ、ゴウキが大地を抉り込み突進したのだ。


2人の行動はほぼ同時であった。


ゴウキは桃太郎を脳天から潰そうと得物である棍棒を振り上げ迫る。


対する桃太郎は身構える事もなく余裕の笑みを浮かべていた。



ー ゴオオオゥ! ー



ゴウキが桃太郎まであと一歩と迫った時、突如台風並の暴風が吹き荒れた。


ユウは堪らず数メートル吹き飛ばされてしまう。



ー ズウゥン! ー



その間に棍棒を叩き付ける音が聞こえ大地が揺れた。



ユウはすぐさま立ち上がり、身構えて周囲を確認したが、そこに桃太郎の姿はなく、彼がいた場所には数メートルのクレーターが出来上がり、棍棒を地面に降ろしたゴウキが悔しそうに上空を睨んでいた。



同じようにユウも見上げると、そこには人間ほどある大きなきじが滞空しており、その足に桃太郎が掴まっていた。


大雉が翼をはためかせる度に強風が辺り一面を吹き荒らす。



「鬼族共との決着はまた次の機会に致します。それまでに首を洗って待っていてください、ゴウキさん。そして、竜鬼さんも」



離脱の言葉を風に乗せて、桃太郎は大雉と共に海岸の方向へと離れていった。



「はあ・・・ふう。追撃したいところですが、仲間の無事を確認する事と負傷者達の救護をする事を先決と致します。

騎士様、申し訳ありませんが次回また奴らが攻めて来た時はご助力のほどよろしくお願い致します」



ゴウキは葛藤や悔しさ、責任や安堵など様々な感情が入り交じっているであろう深く長い溜息をつき、今後の方針を決めた。


もちろんユウは次回の協力を快諾する。


そして、イベントが終わり無事に生き残った安堵感からユウもまた深く長い溜息をつくのだった。

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