第14話 桃太郎VS竜鬼
持ち場から移動したユウが会敵したのは残り7分を切った時であった。
本陣まであと少しという位置で4人のプレイヤー達が次々と襲い来る鬼族の戦士達を薙ぎ倒しながら移動しているのを発見した。
少し離れた木に潜み観察すると、実際に鬼族達を斬り捨て進んでいるのは1人だけで、残りの3人は彼の少し後ろを追従し、彼が討ちこぼした者に止めを刺したり、ポーションを使用して仲間同士で回復させ合ったりと、前を行く1人のサポートに徹しているようであった。
ユウが観察している間にも防衛の為に駆け付けた鬼族達を1人また1人と日本刀の一種である野太刀を使い、流れるような綺麗な動作で斬っていく。
鬼族の戦士達をものともせず進撃する彼は、大鎧の上に羽織を纏い、兜の代わりに鉢巻を身に付けて長い黒髪を頭の後ろで括っていた。
PN《プレイヤーネーム》を確認すると、そこにはNPCである事を意味する表示と『桃太郎』の名前が。
「あれが桃太郎・・・」
ユウは人知れず息を呑む。
あれが鬼族の天敵。
あれが刃を打ち合わせる為に担当エリアから離れて本陣まで追ってきた目的の人物である。
残り5分。
本陣が目と鼻の先に迫り、本陣内にゴウキが仁王立ちしているのが見えた。
付近にいる鬼族の戦士達も両手で数える程しかおらず、このままでは5分近くを残して桃太郎達が本陣に突入する事を許してしまう。
ユウは覚悟を決め、イベント最後の戦いに挑んだ。
彼は桃太郎達の前に立ち塞がり、名乗りを上げて堂々と戦い始めた・・・のではもちろんなく、鬼族の本陣や桃太郎の戦う姿に気を取られて警戒が疎かになっている3人のプレイヤーの背後から強襲した。
『
赤く煌めく竜鱗を纏った右手はプレイヤー達に対しても破滅的な威力であるようで、横並びで歩いていた3人の胴体を引き裂くように薙いだ途端、3人とも腰部分とHPバーが消滅し光の粒子となって消えた。
完全に虚を突く形で攻撃に成功したユウは、その勢いのまま桃太郎の背に向けて、抉るような突き攻撃を放つ。
本陣のゴウキへと視線を向けている桃太郎は避けられず、その身がユウの右手に貫かれるはずであった。
しかし、ユウの右手が桃太郎の背に届く寸前、いきなり彼の右手が跳ね上げられた。
「斬り飛ばすつもりでしたが、存外強固な右手ですね。鱗に竜のお面とは、さながら貴方は
桃太郎は僅かに驚いた表情で刀を正眼に構え直してユウに向き合う。
ユウは悲鳴をあげそうになった。
本陣ばかりを見ていた桃太郎が突然振り返り、野太刀で右手を斬り上げたのだ。
(なんつう反射神経をしてるんだよ!)
対峙する桃太郎と野太刀の迫力に、ユウは硬直しそうになる身体を無理矢理動かして、悪態と共に再び攻撃に移る。
桃太郎に対抗できる唯一の『火竜の右手』が解除されるまで残りわずか。
それまでに全力を出し切らないと、今までの特訓が活かされないまま終わってしまう。
ユウは右手の熱量を現在コントロールできる範囲の限界まで上げ、袈裟斬りのように桃太郎の左肩目掛けて右腕を振り下ろす。
熱量のコントロールは特訓の成果の1つである。
打ち合わせれば刃ごと焼き千切られると判断した桃太郎は身を後ろに引いて避け、当然のように返す刀でユウと同じく袈裟斬りを放った。
ただし、同じ攻撃とはいえ技の精度は段違いである。
思わず見惚れてしまう程の流麗な動作から放たれた、鉄さえ両断できそうな鋭い一撃を攻撃後で態勢が崩れたユウが避けられるはずもなく、左肩から右腰にかけて斬撃をまともに受けてしまった。
しかし、攻撃をユウの身体に当てた瞬間から桃太郎は眉をひそめていた。
斬撃に手応えが感じられなかったのだ。
すると切り裂かれたユウの身体が陽炎のように揺らめいた。
本来なら消滅しているはずのユウのHPバーは未だ健在である。
桃太郎の表情に困惑の感情が混ざった瞬間、揺らめきの向こうからユウが右手を伸ばし突進してきた。
「くっ!」
さすがの桃太郎も反応がわずかに遅れ、避けきるタイミングを逃してしまい、苦肉の策として野太刀で受け止めた。
ー ガキィイン! ー
刀と手のはずだが鉄同士が衝突する音が発生し周囲に響き渡る。
ユウの突進は野太刀に止められたが、受け止めた刃の部分は1秒もしないうちに溶け落ち、欠損した刀は粒子となって消滅した。
そして、ユウの『火竜の右手』も追撃を開始する前に効力が切れ元の右手に戻った。
桃太郎は予備で携帯している脇差しを、ユウは初心者用片手剣をそれぞれ構えて再び対峙する。
残り4分。
桃太郎に撤退の意志はない。
残り時間を凌ぎきる。
剣術の達人である桃太郎と素人のユウとでは明らかに分が悪いが、スキルを使い終わった今ではそれ以外の選択肢がなかった。
桃太郎が突進の為、片足を半歩後ろに引いて少し腰を落とす。
ユウにとって時間的には短く感覚的には永遠に等しい防衛戦が今始まろうとしていた。
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