第13話 竜騎士参戦

イベント開始から2時間30分経過した現在。


「・・・暇だなー・・・」


ユウは木を背もたれ代わりにして座り込んでいた。



これまでユウが交戦した人数は5人程。


うち2人は周辺国が送り込んだNPC兵であった。


参戦当初は大人数が攻めてくるだろうと身構え緊張していたユウであったが、一向に来る気配がなく、ようやく敵が姿を現したのはユウが持ち場に着いてから30分程経過した頃であった。


ユウの初戦はNPC兵であった。


他のプレイヤーと違い、鬼族が着ているような大鎧を身に纏っている。


ネーム欄は『遠征兵』となっており、HPバーは森や草原に出没するモンスター達とさほど変わらない量であった。



NPC相手に有効かは不明だが、ユウは近くの太い木の幹に身体を寄せて姿を隠した。


一方、NPC兵は辺りを見渡しながらユウの方へと近付いてくる。


一瞬見つかったかと思ったがどうやら偶然だったらしく、ユウが身を潜めている木のそばにある木々の間を通り抜けていった。



ユウはすかさず背後に回り込み、片手剣で比較的防御が手薄そうなふくらはぎ辺りを斬りつける。


バックアタックボーナスもあり、兵のHPバーを多く削る事ができた。


そして、攻撃を受けた兵がゆっくり振り返るよりも先に、ユウはその場で1回転し、再度ふくらはぎを斬り払った。



回転の勢いは止まらず、ユウは3回目の横薙ぎを腰部分に放つ。


2回目の攻撃で残りわずかとなっていた兵のHPバーはこの攻撃で見事に吹き飛び、兵は光の粒子となって消えていった。


どうやら遠征兵の強さは森や草原のモンスターと同じレベルに設定されているようであった。



その後、宝箱を探しに訪れた3人組のプレイヤーを背後からスキルを使用して強襲して倒し、また、初戦のNPC兵のようにのこのこ歩いてきた遠征兵を倒したところで打ち止めとなり、現在に至る。



一息どころか二息も三息もつき、ユウはイベントの情勢を考えてみた。



このイベントについては開始時からオニガシマ全域がマッピングされており、また、味方の位置が分かるようになっていた。


敵の数や位置、宝箱等のアイテムの位置は自身が目にしなければ表示されないが、味方の数がさほど減っていない事を鑑みれば、宝箱等はおそらく無事、敵の数も順当に減っているだろう。



考えてみれば伝令役のサエキでさえ、あの強さなのだ。


他の戦士はもちろん、大将であるゴウキの強さは想像を絶するに違いない。


そんな強者達つわものたちにNPC兵はもちろん、プレイヤー達が太刀打ちできるのかは疑問だが、彼らは彼らで必死のかくれんぼでやり過ごしたり、強力なスキルで鬼族の戦士と戦ったりするなど、それぞれの方法でイベントを楽しんでいるかもしれない。



それでも、鬼族達に淘汰され人数が減っている状態では、ユウの持ち場までわざわざ探索に訪れる余裕はないのだろう。


ユウはそう解釈して残り時間ものんびり周囲を散策しようと決めた。



だが、その時だった。


海岸付近にあった鬼族の戦士達の表示が突如として消え始めたのだ。



表示が消えたのは敵に倒されたからで、それ自体は普通の事なのだが、その数が尋常でなかった。


次から次へと表示が消えていき、瞬く間に海岸付近から鬼族なかまの表示がなくなった。



「なっ!?」



ユウが唖然としている間にも、鬼族の表示は消えていき、本陣へと続く道にある表示も消え始めた。



鬼族の戦士達を次々と屠る者が現れ、本陣へと侵攻しているのだ。



ふいに『桃太郎』の存在がユウの頭をよぎった。


いや、むしろ間違いなくその者であろう。



「あと10分か・・・サエキさんは桃太郎との戦いは避けろとは言ってたけど・・・」


桃太郎の侵攻ペースからするとあと10分もあれば確実に本陣へと到達するだろう。


そこでゴウキと交戦する事になる。


1対1なら時間まで決着がつかないはずなので、時間切れまで財宝を死守出来た事になりイベントクリアとなるだろう。



しかし、1対1でなかったら。


生き残りのプレイヤー達が加勢して、ゴウキと桃太郎の戦力のバランスが崩れたら。



その可能性は大いにあるだろう。



ユウは覚悟を決め残り10分となった今、ついに持ち場を離れる事にした。


侵攻する桃太郎を足止めする為に。


ゴウキに加勢する為に。



「大丈夫、失敗してもイベントリタイアになるだけだ。それにスキルもまだ使用できるし。・・・うし、楽しんでいこう」



イベント終盤クライマックスの重要な局面を迎え緊張する心を解こうと自分自身にそう言い聞かせる。



こうしてイベント開始から2時間50分経過後、ついに火竜姫リングレットの騎士が戦場の中心へと躍り出た。

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