第12話 イベント開始
突然のイベント内容変更に驚いていようと慌てていようとイベントの時間は
困惑していたユウであったがとりあえずイベントに参加しようと、メッセージと共に運営から
その道中に鬼族側の事情を聞く事となる。
彼らによると大昔から近年に至るまでヒノモトにある小さな国と平和的な交流があった。
鬼族と小国は互いに伝統技術や工芸品、食物などを交換したり伝えたり、また、支え合いながら発展を遂げていた。
しかし、彼らの技術の高さに目をつけた周辺国が陰謀結託し、鬼族と交流を深めていた小国に無実の罪を被せて、それを理由に侵攻を開始した。
小国は徹底抗戦し、鬼族の助力もあって序盤は互いの戦力が拮抗していたものの、周辺国側の圧倒的な物量攻撃に徐々に消耗していき、最終的に滅ぼされ、小国の地は周辺国に分割されてしまった。
それだけに
その時、周辺国が派遣した兵の数はおよそ一万。
彼らはオニガシマに着くや否や、財宝奪還という名の略奪を開始した。
一方、迎撃戦に参加した鬼族の数はわずか千。
そもそも、種族全体を通しても個体数が少ない鬼族からすれば戦いに投入できるギリギリの数である。
周辺国側はどの国も勝利を疑わず、他国よりも早く多く鬼族の技術を手に入れ、地方一帯の覇権を握ろうと
しかし、彼らの目論見は大きく外れ、侵攻の結果は散々なものとなった。
鬼族の戦士達が強過ぎたのだ。
数では劣る鬼族軍であったが、個々の戦闘能力は周辺国側の兵士達をはるかに凌駕しており、正に一騎当千の強者達であった。
結果として、ゴウキ率いる鬼族の精鋭達に兵の半数近くが討たれたところで周辺国側の戦線は崩壊、逃亡者続出の中、鬼族軍の追撃によって更に数を減らし、最終的に周辺国側は兵士の7割近くを失う事になった。
それが数年前の出来事であり、『第一次オニガシマ防衛戦争』と呼ばれた戦いである。
大損害を受けた周辺国は、損害の取り返しとプライド挽回の為、侵攻軍の再編成などの準備を急ピッチで行い、再びオニガシマへと侵攻を開始した。
また、彼らは前回、自国の兵士達だけでは歯が立たなかった事と戦力不足から、不思議な能力を持つ
この戦いが今回のイベントであり、周辺国と契約した戦士達こそがイベントに参加するPAOプレイヤー達の事であった。
事情を聞いたユウは、イベント上のシナリオとはいえ、鬼族側に情が入り彼らの力になりたいと思った。
しばらくして、ユウが防衛を担当するエリアに着く。
そこは海岸と本陣の中間辺りの距離であるが予想される侵攻進路からは外れており、比較的戦闘する機会が少ないとされる場所であった。
ゴウキの指示によると、この場所にも宝箱を隠してあるので死守すること、また、侵攻中の敵軍が本陣へ向かう途中に横槍を入れて欲しいとのことであった。
他にも数点、注意事項をサエキから説明され、その中には、ユウが気になっていたとある人物名も含まれていた。
「『桃太郎』との交戦は極力避けて下さい」
その人物とはゴウキが名指しで警戒した桃太郎であった。
「ゴウキさんも警戒していましたが、それほど強い人物なんですか?いったい何者なんです?」
「奴が何者なのかは分かりませんが、敵側の切り札というところでしょう。また、奴の剣技は敵兵の中で群を抜いており、我ら鬼族の手練れ達と同等かそれ以上かもしれません。
前回の戦いでは奴1人に多くの仲間が討たれてしまいました。ゴウキ様が騒ぎに気付いて相手取っていなければ被害はもっと拡大していたでしょう 」
「そんなにですか・・・ちなみに桃太郎には仲間がいましたか?」
「いえ。私が直接見た訳ではないのですが、目撃者によると単身で斬り込んできたそうです。・・・っと、失礼」
唐突に話を中断したサエキは、携帯していた弓に矢をかけて放った。
ー ヒュン ー
尋常でない速度で放たれた矢は、風切り音を伴って森の中へと消えていく。
数秒後、木々の間から微かに光の粒子が見え、消えていった。
「おお・・・」
「どうやらこの辺りにも近付いて来ているようですね」
感嘆するユウとは裏腹に、サエキは何事もなかったかのように弓をしまい、ため息をつきながら油断なく辺りを警戒する。
「話が途中になってしまい、説明不十分で大変申し訳ありませんが、私はこれから伝令の為、移動させていただきます。
再度申しますが、くれぐれも桃太郎との交戦は避けて下さい。それでは御武運を」
「あっ、は、はい。サエキさんも御武運を!」
サエキはそのまま風のように走り去り、ユウだけがその場に残される。
「・・・うっし、頑張るか!」
独りの不安と初めてのイベント参加の楽しみに、心を揺るがせたユウの戦いが今始まろうとしていた。
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