第11話 バトルオブオニガシマ

イベントの告知が届いてから1週間程が経過した。


大和は毎日ではないにしろ、自宅にいる時に暇をみつけてはPAOにログインし、レベリングに勤しんだ。



『火竜の右手』を初めて使用したあの時、スキルの性能が自身のステータスや実力とあまりにもかけ離れており、スキルの使用がつまらなく思えて忌避しかけたが、リングレットのメッセージにあった『スキルを使いこなせ』という言葉を受けて考え直した。



そのスキルに見合うだけの実力を身に付けろという意味だと解釈した大和ユウは、ここ1週間レベリングの他にもスキルの使用方法を試行錯誤して磨きをかけ、その結果いくつかの応用技を身に付けたのであった。


なお、リングレットとはあの日以来出会っておらず、メッセージについてもこちらからは送れない仕様であり、完全に音信不通となっている。


ただ、その事に関しては、用事があればまた連絡してくるだろうとユウは特に気にしていなかった。




そして、ついにイベント当日となった。


できるだけ多くのプレイヤーが参加できるよう、土曜日に設定されており開始時間も21時となっていた。


ユウもイベント参加の為、開始時刻の少し前からログインし、始まりの街で待機していた。



ここ数日のレベリングでユウはレベル6になり、防具もジャージ(青)から頭部以外を皮鎧一式に新調した。


ちなみに皮兜を揃えられなかったのは資金が足らなかったからである。


同じ理由で武器も初期の片手剣のままであった。



初心者からは少しだけ脱し、それでも、まだまだ一人前とは言い難い立ち位置にいるユウは、不安と楽しみが入り交じった感情で今か今かとイベントが開始されるのを待っていた。



そして、開始時刻。



ー ピンポンパンポーン ー


いつもと違う通知音が鳴り、目の前にイベントに参加するか否かの選択画面が現れた。



同時に街全体にアナウンスが流れ、イベント開催のお知らせと参加方法の説明がなされる。


選択画面は10分間表示されているとの事であったが、ユウは迷わず『参加』を選択し決定ボタンを押した。



すると、ユウの足元に馴染みのある魔法陣が浮かび、光に包まれて待機場所へと転移した。


転移した先は、キャラクター登録を行った体育館のような空間であった。



あの時は中央に女性のNPCが佇んでいたが、今回は自分1人しかいない。


動作確認の為に使用した器具や武器もなくなっており、代わりに今回はイベントの参加報酬であるHPポーションやMPポーションなど、いくつかのアイテムが置かれていた。


また、女性NPCがいた中央には掲示板が設置されており、メッセージで送られてきた内容と同じく、今回のイベント説明が掲示されていたので、ユウは時間潰しにお復習さらいの為、確認した。




イベント名は『バトルオブオニガシマ』。


舞台はイベント専用フィールド『オニガシマ』。



内容イベントストーリーとしては、オニガシマには、ヒノモトにある村や街を襲い財宝を奪う『鬼』達が住んでおり、プレイヤー達はオニガシマの海岸からスタートして、鬼達と戦いながら、鬼達がこれまで奪った財宝を取り返すというものであった。



財宝は様々なアイテムや素材であり、中にはレアな装備や武器も存在する。


財宝は宝箱に収められており、様々な場所に隠されている。


宝箱は触れたプレイヤーが獲得でき、いくつでも獲得できる。


制限時間は3時間で、一度死んだらリタイアとなり、始まりの街へ戻され再び参加はできない。


ただ、それまでに獲得した宝箱は死んだ際にドロップしない限りは持ち帰れる。


宝箱は数に限りがあるので、鬼とはもちろんプレイヤー同士の戦闘が起こる可能性もある。



といった内容であった。


他にも中ボス、大ボス級の鬼がいるなど細かい点もあったが、全てを確認する前に10分経過し、イベント開始時間となった。



再び足元に魔法陣が広がる。



オニガシマの海岸に着いたら、先陣を切って宝箱を探しに行くか、後続につき様子をみながら行動するか。


ユウはイベント開始時の立ち回りを考えながら転移していった。




だが、そのシミュレーションは無駄に終わる。



「桃太郎を含む討伐者達が南の海岸に出現しました!数はおよそ2万!」


「・・・え?」



オニガシマの地に降り立ったユウに戦況が伝えられるが、完全に予想外な状況に陥り思考が止まった彼の耳には届いていない。



ユウが今理解しているのはここが海岸スタート地点でなくどこかの森の中だという事だけである。



「雑兵どもなど数がいたところでハエと同じだ。それよりも桃太郎は絶対に見失うな」


「はっ!」


「・・・は?」



戦況報告者以外の声が聞こえ指示を出したのを耳にして、ユウの思考がようやく動き出す。



どうやら自分への報告ではなく、指示を出した者への報告であったらしい。


だが、まだ今の状況に理解が完全には追い付いておらず、少しだけ上の空であった。



また、報告者と指示者の出で立ちを眺めていたユウは、彼らの頭部に短い突起物、角が生えている事に気付いた。



「ハエでも2万もいると鬱陶しい事この上ない。財宝はくれてやっても良いが、女子どもに手を出されぬよう対策をとらなければ・・・ん?」


「・・・ん?」



報告者が去った後、指示者の独り言が聞こえ、その内容と彼の姿からユウはようやく今の状況を理解する。


そして、咄嗟に行動しようとした矢先、指示者と目が合ってしまった。



「おお!これはこれは!火竜姫リングレット様の騎士様!いらっしゃいましたか!話は聞いております!」


「・・・はい?」


イベントの立場的に戦闘になると身構えかけたユウであったが、指示者、見た目は人間であるのに頭部に角を持つ者、つまり『鬼』はユウの事を知っている素振りをみせて彼を歓迎した。



「この度は防衛戦援護の為、このような僻地まで足を運んでいただき、大変感謝しております。かのリングレット様の騎士様がおられるなら、此度の戦は我ら鬼族の勝利は揺るがず。

我らと共に憎き桃太郎や討伐者達を返り討ちにいたしましょう!」



鬼族である彼は、ユウがリングレットの命令で彼らの援軍に来たと信じており、感謝と共に力強い言葉を放つ。



鬼族の彼が身に付けているのは、戦国時代よりも昔、平安時代後期から源平合戦にかけて用いられた大鎧であり、彼の力強さが更に際立っていた。



ユウは言えなかった。


自分の立場は鬼族のいう討伐者側なのだと。



どうしようかと途方にくれたその時、一通のメッセージが届いた。


リングレットからだろうと、ユウはおもむろにメッセージを開け確認する。



『【個人宛】イベント内容の変更。


いつもパラレル・エイジ・オンラインをプレイしていただき誠にありがとうございます。


このメッセージを受け取った方のみ、急遽イベント内容を変更させていただきました。


【変更点】

鬼族の防衛戦援護、宝箱の死守。


報酬は担当エリア内で死守した分の宝箱および、敵陣営から取り返した分の宝箱。


制限時間、死んだ場合の措置に変更点はありません。


急な変更でご迷惑をお掛けし申し訳ありません。



引き続きイベントをお楽しみ下さい。


運営より。』




メッセージは運営からで、イベント内容を変更する旨の内容であった。



「ええええぇええええ!?」



全てを理解し驚愕するユウの声が、森の中に設けられた陣中に響き渡った。

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