第18話 お願い

「言うのが遅れちゃってごめん。騙すつもりも隠すつもりもなかったんだけど・・・」



西織花奈にしおりかなこと『ニカ』は申し訳なさそうに謝る。



「いやいや、俺は気にしてないし、ニカさんも気にしないで。それにゲームの話だから、現実世界リアルで正体を明かすのも難しいしね」



ユウの方は特段気にした様子もなく、買い物での談笑の続きのように朗らかな笑顔を向ける。



「うん・・・ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ」



ニカもようやく表情を緩め、ふんわりとした笑顔をユウに向けた。



「じゃあ、改めて。現実でもPAOでも助けてくれてありがとう」


「両方とも締まりが悪かったけどな」



ニカは初心者狩りとナンパ先輩から助けてもらった事の感謝を伝え、ユウはそれぞれの出来事を振り返って苦笑する。



「そんな事ないよ。とっても・・・格好良かったよ」


「っ!・・・お、おう。俺もそう言ってもらえると助かるよ」



屈託のない笑顔を向けらたユウは心臓が跳ねたのを感じ、動揺を隠そうと言葉を紡ぐが、ニカの台詞セリフを使い回す事で精一杯であった。



「そ、それで、今日この場所に呼んだのはこの為?」



照れ臭くなったユウは話題を変えようと、ユウはここで待ち合わせした目的を尋ねた。


お礼だけなら始まりの場所でも良い。


あえて他のプレイヤーが来なさそうな場所を選ぶなら、それなりの理由があるはずだ。



「もちろんお礼を言うのも目的の1つだけど、他に大事な相談があるの」



少しだけ沈黙した後、緊張した面持ちでニカは告白する。



「・・・実は私、ここでは特別なプレイヤーなんだ」


「・・・え?」



ユウはまさかと驚いたが、ニカは彼の驚きを別の意味で捉えたようで



「あっ、信じてないね?本当に特別なんだよ?PAOには私みたいなプレイヤーは他にもいるんだからっ」



彼女は少しだけ頬を膨らませて、ユウに特別なプレイヤーとなった経緯を説明した。



「ーーその結果、私は一角獣ユニコーンのエルレンシアと契約したの」



ニカの経緯を聞くと、ユウと同じで特別なモンスターと突然出会い、契約を結んだとの事であった。


自分と同じ境遇である彼女に仲間意識が芽生えたユウに対し、ニカは言葉を続ける。



「それでね、相談というよりはお願いになるんだけど・・・私と国を造って欲しいの」


「へ!?」



予想外のお願いにユウは目を丸くして思わず聞き返した。



「契約した時にエルレンシア・・・エルにお願いされてね。エル達、特別なモンスターには願いがあって、各々が安心して暮らせる自分の国が欲しいらしいの。

でも、モンスターというシステム上、自分達自身で国を造る事が不可能だったんだ。このままじゃプレイヤー達に延々と追われなければならない。

それを危惧したエル達は考えて、私達プレイヤーと契約して力になる代わりに、プレイヤー特有の国造りシステムを利用して、自分達の国を造ってもらうようお願いしたの」


「そうだったのか・・・」



特別なモンスターと契約しているプレイヤーが複数いる事はリングレットから聞かされていたが、目的が国造りだったとは初耳であった。



(そういえばリンもお願いがあるって言ってたな)



リンのお願いもまだ教えてもらっていないが国造り関係の可能性が高い。



「だからお願い。ユウ君も手伝ってくれないかな?」



ニカはユウの返事を待つ。


だが、特別なモンスターが絡む事案であれば、リンと話し合わって決めなければいけない。


ユウが答えあぐねていた時、ニカとは別の声が聞こえた。



「私からもお願い致します。」



声と共に木々の影から姿を現したのは、古代ローマ風の服に身を包んでいる二十歳くらいの女性であった。



「火竜姫の騎士様。初めまして、ユニコーンのエルレンシアと申します。以後お見知りおきを」



エルレンシア、エルはドレスの裾を持ち、優雅に礼をする。


その動作と彼女の美しい銀髪姿とが妙に合い、荘厳な雰囲気を醸し出す。


どこぞの姫よりかは余程姫々している。



「どうか私どもと力を合わせて下さいませ」


「そうしたいのですが、俺1人では決められなくて・・・。それよりも俺の事を知っているんですか?」


「もちろんです。リンと私は非戦協定を結んでいる戦友ですので」



ユウ個人は力になりたいと思っているが、主人リンがどうするか分からないので、判断する事ができない。


また、エルが自分の事を知っている素振りであった為、少し警戒して尋ねたら意外な答えが返ってきた。



「非戦協定?」


「はい、基本的に私達のような特別なモンスターは対立関係にあるので、今回の国造りに関しても競い合っているのですが、リンとは近しいAIプログラムの所為か妙に息が合うのです。

その為、国造りの計画も含めて彼女とは協力関係を築いているのです」


「なるほど。だから戦友であり、俺を知っているんですね」



ユウは納得し、エルへの警戒を薄めた。



「ねえ、ちょっと良い?火竜姫の騎士って何?ユウ君はエルと知り合いだったの?」



少しだけ場雰囲気が緩やかになり、今まで話がみえず2人の会話を聞いていたニカが、気になる事を尋ねてきた。



「エルレンシアさんとは初対面だけど、まあ、共通の知人がいる感じかな?」


「ええ、明るいちんちくりん姫が」


「誰がちんちくりんよっ!」



ー トンッ ー



その時、また新たな声が聞こえ、その主は軽い着地音と共に空から文字通り降ってきた。



ちんちくりん姫こと火竜姫リングレットである。



「もーっ!エルのおしゃべりやさんっ。わたしだってまだお兄ちゃんにお願いしてなかったんだから!」



リンはぷりぷり怒る。


だがそれは本気で怒っている訳ではなく、じゃれ合いの一環だという事はユウにも分かった。



「あらあら。それはごめんなさいね。じゃあ、良い機会だしリンも騎士様にお願いしてみてはどうかしら?

貴女ってば、肝心なところで奥手になるのだから、この機を逃してはまた長くなるわよ?」



エルも馴れたもので、軽く謝りながらリンにアドバイスをした。


うー・・・まだ早いのにぃ。


と愚痴りながらも、リンはユウに向かって緊張した面持ちでお願いをする。



「あのね、お兄ちゃん。もうエルから話を聞いたと思うけど、わたし達、特別なモンスターは各々の国が欲しいんだ。プレイヤー達から追われない安息の地がね。もちろんわたしも。

だから、お兄ちゃん、お願いです。わたしに竜の国を造って下さい。」



対して、ユウの返答はもちろん。



「おう、いいぞ」



ニカとエルのお願いを聞いた時から、リンのお願いも予想しており、元々お願いを承る方向で答えを決めていたのだ。



「さすがお兄ちゃんっ!ありがとう!」



リンは安堵した表情で、ユウにお礼を言う。



「ちなみにニカさんやエルレンシアさんとは、お互いに協力してお互いの国を造るって事で良いのか?」


「うんっ。エル達に助けてもらった方が早いもんね」


「私達もそれでよろしくお願い致します。それとユウさん。私の事はエルとお呼び下さい」



こうして、リングレット陣営とエルレンシア陣営との間に非戦協定の他、新たに国造り同盟も結ばれた。



「私だけちょっと置いてきぼりになっちゃったけど・・・これからこっちでもよろしくね、ユウ君」


「ああ、こちらこそよろしく、ニカさん」



盛り上がるモンスター2人を横目に、プレイヤー2人もお互い笑顔で友情を交わしたのだった。

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