第6話 遭遇

「こんな事もあるんだな」



始まりの街に死に戻りしたユウは苦笑いしながら再び森へ向かう。


1人暮らしといえど、いやむしろ1人暮らしだからこそゲームの他にもやるべき事が多い。


ゲームをする余裕があるのはあと1時間程なので、今日はもう1レベル上げて、ステータスポイントの振り分けなどは明日にしようと考えての事だった。


クロードやニカに遭遇すれば、面倒や気まずい事になると心配したが、幸いにも森に入るまで両者と出会う事はなかった。



2度目の森は前回とは違う方向に進んだが、やる事は変わらず、ホーンボアやスネークテールマンキーを相手取って倒しながら奥へ進む。


30分が経った頃、ユウは森の中で洞窟を発見した。


中を探索したい好奇心に駆られるが、時間内でそれが満足にできると思えない。


洞窟までのマッピングはできたので、今回は諦めて、中に入るのは次に訪れた時にしようと踵を返した。


その時である。



ー 行っちゃうの?お兄ちゃん。 ー



後ろからかすかに少女の声が聞こえた。


驚いてユウは振り返ったが、後ろはおろか周囲を見ても誰もいない。


気のせいかと再び踵を返しかけた時



ー こっちに来て、わたしと遊ぼう。 ー



また少女の声が聞こえた。


ユウは声がした方向を向く。


そこには洞窟があった。


どうやら洞窟の中から呼ばれているようだ。


中を見通せない仕様なのか、洞窟の入り口は暗く、まるで巨大な怪物の口のようであった。



「・・・何か分からないけど、呼ばれているなら一度入ってみるか」



本来なら街へ戻ってゲームを切り上げ、家事や明日の講義の準備をするつもりであった。


しかし、呼ばれているなら仕方ない。


もし、この呼び掛けがフィールドでランダムに発生する特殊イベントだった場合、この期を逃したら再び同じ事が起こる可能性は限りなく低い。


それに、自分を呼ぶ声に応じて洞窟に入っても、無理なら途中で脱出すれば良いし、最悪街へ死に戻りすれば良い。


そう自分自身に言い訳をして、洞窟の探索を行う事に決めた。



元々この洞窟に興味を抱いていたので、呼ばれたのは良いきっかけだった。


ただ、洞窟へ入ると決めたからには簡単にリタイアしたくないので、応急準備としてステータスポイントを振り分ける事にする。



「女の子の声だったし、もしかしたら洞窟内にいるのは幽霊ゴースト系のモンスターかもしれないな。」


そうなると、物理耐久より精神耐久か。


ユウはしばらくの間考え、精神耐久【CG】をメインに、ステータスの振り分けを行った。



「よしっ。行くか」


これが現実世界ならもう少し心の準備に時間が必要であったが、ここはゲームの世界なので、そこまで緊張する事もなく、まるで散歩に行くくらいの気楽さで洞窟内へ踏み入る。


入り口は暗くて中を覗き込めなかったが、中は予想外にとても広く、天井や側面には光る石が散りばめられており、足元まで照らされているので松明などの照明アイテムは必要なかった。


そして、もう1つ予想外であったのは、洞窟内にモンスター出現の兆しがない事であった。


洞窟には分かれ道もなく、ただ道が真っ直ぐに続いていた。


ユウは少し肩透かしをくらった気分になりながら歩みを進める。



しばらく洞窟を奥へと進んでいるうちに洞窟の先から光が差し込んでいるのが見えた。



「・・・出口なのか?」


じゃあ、この洞窟は何の意味があったのか?少女の声はどこから聞こえたのか?そんな疑問を持ちながら、とりあえず光差す場所まで行ってみた。



案の定、そこは洞窟の出口となっており、洞窟から抜け出したユウは眩しさに目を細めて周りを見回し、そして、驚愕した。



「え?ここは・・・?そして君は?」



洞窟から抜けた先は、森ではなかった。


また、始まりの街から行けるもう1つのフィールドである草原でもない。



そこは荒廃した野外神殿のような場所であり、至る所に石柱が倒れ果て、石畳も所々剥がれていた。


空には雲が広がっており、その隙間から太陽の光が神々しく神殿へと降り注がれている。



そして、その神殿の中央には1人の少女が佇んでいた。


赤いドレスを着た彼女は太陽光で輝く金髪を風にたなびかせ、ユウに微笑みかける。



「ようやく会えたね、お兄ちゃん」


「君が・・・呼んでいたのか?」


「そうよ、竜のスキルを持つお兄ちゃんを待ってたの」


「!」



ユウは再び驚愕する。


オンリーワンスキルはまだ2回しか使用していない。


しかも、他のプレイヤーがいる前で使用したのは先程の1回のみだ。


自分のスキルが知れ渡るにしては早過ぎる上に、この少女と自分との間に面識はないので、自分の情報を得たところで何のメリットもないはずなのだ。



では、このは一体何者で、何の為に接触を図ってきたのか。

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