第5話 初心者狩り狩り

「止めてくださいっ!」


「ああ?初心者ルーキーが口答えすんじゃねえよ」




近付くにつれ会話の内容がはっきりと聞き取れるようになった。


それがただの雑談などではなく、不穏な類いの会話だという事も。



「可愛い動物なんてどこにもいないし、なんで急に攻撃してくるんですか!?」


「んなもん元からいねえよ。罠に決まってんだろ」


「なっ!?だ、騙したんですか!?」


「だったらどうした。気付かねえ間抜けなお前が悪いんだろ。ごちゃごちゃ言ってねえで大人しく俺の経験値になれよ!」



聞こえてくる声は男女のようで、初心者ルーキー、経験値という単語ワードから、両者ともプレイヤーで、男性が初心者の女性を騙して人気のない場所に連れていき、倒して経験値を得ようとしている事が推測できた。


目視できる距離に到達したので、ユウは木々に隠れて、その間から男女の姿を確認してみる。


プレイヤーの頭上にはPN《プレイヤーネーム》とレベル、そしてHPバーが表示されており、男性は『クロード』という名でレベル3、女性の方は『ニカ』でレベル1であった。



クロードは上半身が皮鎧、下半身はジャージ(青)というチグハグ装備である一方、初心者のニカは潔くジャージ(赤)一式を身に纏っている。


ただし、ユウを含む他の初心者と異なり、ニカはジャージ(赤)以外に、顔にウサギのお面を着けていた。



クロードは地面にめり込んでいた自身の武器である大剣を両手で踏ん張り持ち上げ、再びニカに突きつけるようにして構えた。


ニカの方がまだ武器を手にしていないところを見ると、本当に突然攻撃されたようだ。


両者ともHPバーが減少していないので、先程のクロードの攻撃は運良く外れたのだろう。


ユウはニカを助けるか一瞬だけ考え、助ける事に決めた。



PAOにおけるPvP《プレイヤー・バーサス・プレイヤー》は練習モードや決闘モード以外で相手を倒した場合、モンスターと同じく経験値を獲得できる。


その為、モンスターより楽に倒せそうな初心者ルーキーを狙った初心者狩ルーキーキラーりが横行しているのだ。



クロードは明らかに初心者を馬鹿にした言動をとっているので、初心者狩りの可能性が高い。


ただ、まだレベル3でステータスも装備も十分でない上、大剣を重たそうに持ち上げている姿を見る限りでは、武器も扱い慣れていない様子である。


まだ初心者狩りを始めて間もないのだろう。


ユウのスキルも使用可能となっているので、これなら不意討ちで倒せるだろうという算段であった。


また、返り討ちにされた場合、街まで強制送還されるのはもちろん、デスペナルティとして所持金の1割と所持アイテムをランダムに落下ドロップしてしまうが、ユウはまだ初心者なのでデスペナルティはそこまで痛くない。


一番怖いのはクロードのスキルだが、ニカに何の変化も起きていないので、攻撃系のスキルでない、もしくはまだ発動させていないと読み、保険をかけてユウは彼の真後ろから強襲する事に決め、タイミングをうかがう。



タイミングはクロードが攻撃モーションをとった瞬間。


先程の大剣を扱う様子から隙ができる事は明白で、また、ニカにその凶刃が当たるまでにクロードの身体を掴める自信もある。



「んじゃ、次こそ避けんなよぉおおおっ!」


そして、その瞬間が訪れた。


ドラゴンズ握力グリッパー!」



クロードが叫び声と共に大剣を振りかぶるモーションに移った瞬間、ユウはスキルを発動させて真後ろから突撃する。


速度を重視した為、片手剣は納めたままである。



「なっ!?」



果たして、不意討ちは予想よりも絶大な効果を発揮した。


クロードは予期せぬ第三者の声に驚き、振りかぶるモーションの途中で固まった為、大きな隙が発生したのだ。


(よし!余裕で間に合う!)


ユウは攻撃が当たる事を確信したが、落ち着く事に努め、冷静にクロードの首を白く煌めく右手で掴む。



「っ!?」


首を掴まれたクロードは驚愕の表情を浮かべるが、声を発する前にユウの右手に握り潰され、光の粒子となり消えた。




初心者狩クロードりを倒し、ニカを助ける事に成功したユウであったが、その直後、彼に悲劇が訪れる。



クロードを倒した直後、彼の所持金1割と所持アイテムを獲得した通知と、レベルアップの通知が同時に表示された瞬間の事である。



大きな衝撃ノックバックと共に、突撃槍ランスが自身の身体に突き刺さっているのを目撃した。


顔を上げると、そこには突き刺した人物、ニカがいた。


きっとお面の奥では驚きと戸惑いの表情を浮かべているに違いない。



ユウの強襲は成功した。しかし、1つだけ失敗していた。


クロードを倒す事ばかり考えて、ニカの行動予測を失念していたのだ。



ニカもただ倒されるのを待っていた訳ではなかった。


彼女も自身のオンリーワンスキルなら、クロードの攻撃よりも早く駆けて、彼を貫けるだろうと判断し、彼に隙ができる瞬間を待っていたのだ。



「あ・・・」



結果として、ニカの間の抜けた声をBGMに、ユウは光の粒子となって消え、始まりの街へ戻ったのであった。

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