第4話 初戦闘

果たして、ユウの初戦闘は彼の思惑通りに進んだ。


低レベルモンスターという事もあって、大猪『ホーンボア』の攻撃は、初期値のユウでも避けられる程のスピードで、かつ、突進・踏みつけ・噛みつき・角突きを距離に応じて繰り出すだけの単調なものであった。


ユウは大猪ホーンボアから距離を取り、突進を促して木に隠れ、木にぶつかった衝撃で硬直する隙を狙って、片手剣で斬り付ける攻撃を繰り返す。

最初はへっぴり腰で放っていた斬撃も、回数を重ねる毎にさまになっていき、与えるダメージも増えて、大猪の上に表示されているHPバーがどんどん削られていく。


十数回目の斬撃を大猪に当てた時、ホーンボアのHPバーが0になり、光の粒子となって消えていった。

一方、街の外に出た時から表示されているユウのHPバーは、始めの噛みつき攻撃を受けた分の僅かしか減少していない。

こうして、ユウの初戦闘は快勝で終わった。


「ふう」


初勝利で勢い付いたユウは、自分のHPバーにまだ余裕がある事を確認して、次のモンスターを探す。

レベルを上げるにはもう少しモンスターを倒さなければいけないようだ。

次に発見したモンスターは尻尾が蛇のように異常に長い、『スネークテールマンキー』であった。

そのモンスターは木の枝に尻尾を巻き付けて落下しないようにして、固い木の実や石を投げつける攻撃を行う。


ホーンボアなどの地上のモンスターと違い、移動する事はないが、木の上に陣取っている為、遠距離攻撃かもしくは木を登って接近しないと攻撃が当てられない厄介なモンスターであった。

ユウは遠距離攻撃の手段がなく、また、木登りもした事がない。

本来なら発見しても相手にせず、モンスターの攻撃を避けながら、攻撃範囲から離脱するのが常套手段セオリーなのだが、ユウは逆にモンスターが座する木に近付いていった。

試したい事があるのだ。


木々の間を縫うように進む事で、相手スネークテールマンキーの攻撃を避けるつもりでいたが、その投擲攻撃は予想よりも正確で、目的の木に到達するまでに数回被弾してしまった。

ただ、正確な分威力は低いのかユウのHPバーはまだまだ余裕がある。

そして、目的のスネークテールマンキーが陣取る木に到達すると、早速、右手でその幹を掴む。


ドラゴンズ握力グリッパー!」


掴んだまま、自身のオンリーワンスキルを発動させる。

すると、ユウの右手が白い粒子を纏いきらめいた。

そのまま右手を握り締めると、いとも簡単に木の幹を抉り潰す事ができた。

このスキルは30秒間しか効力がないので、急いで幹を握っては潰し握っては潰しを繰り返す。

幹を握る度にまるで溶けかけのバターを掴むように指が沈み込む。


ー ミシミシミシ、バキバキバキィッ!! ー


指が沈む感触がやみつきになりかけた時、遂に幹の半分以上を潰された木が、轟音と共に倒れ込んでいった。

その木を根城にしていたスネークテールマンキーもすべなく、木と運命を共にした。


地面に強く打ちつけられたスネークテールマンキーは、瞬く間に光の粒子となって消えていく。

次いで、幹を潰され倒れた木も光の粒子となって消えていった。


【丸太×1を手に入れました。】


木が消えた直後、通知音と共に、ドロップアイテムを獲得した旨のメッセージが届く。


「丸太か。何かに使えるな」


予期せぬアイテム獲得に喜び、その使用方法をあれこれと想像する。

その後、またホーンボアと遭遇し戦ったり、カラフルな木の実を拾ったり、雑草の人型モンスターと戦ったり、1時間経過したのでスキルを使って新たな丸太を獲得したりと、忙しなく森の探索と戦闘を続け、何体目かのモンスターを倒したところでレベルが上がった旨の通知が入った。


早速ステータスを確認してみるとレベルが2になっており、ステータスポイントを5ポイント獲得していた。


ステータスは、体力『HP』、筋力『A』、物理耐久『AG』、精神力『C』、精神耐久『CG』、敏捷性びんしょうせい『S』の6項目あり、ポイントを加算する事で対象の項目を強化できる。


ちなみにプレイヤーの初期値は表示されないので、現在のユウのステータスはオール0であった。


「ポイントを振り分けるのは街に戻ってからじっくり考えよう」


考えている最中にモンスターに襲われても面倒なので、一旦始まりの街へ戻る事にした。

地図マップに従い道なき道を進む。

地図には森へ入る前、何も表示されていなかったが、探索するにつれ自動的に地図記入マッピングされた為、戻るのは容易であった。


ただし、もちろんモンスター達の邪魔は入る。

ホーンボアや雑草人形ウィードマリオネットなど、見知ったモンスター達を倒しながらユウは歩みを進める。


探索を始めてから3時間が経とうとしていた。

そして、街へ続く小道も見え、もう少しで街に戻れるといった距離の事である。

小道から外れた方向から人の話し声が聞こえた。

探索中、他のプレイヤーと遭遇しなかったユウは少し興味を持ち、好奇心から様子を見に行く事にした。

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