第2話 プレイヤー登録

大和がログインした先は、体育館のような空間であった。

その中央にデパートの受付嬢のような服装をした女性が1人佇んでいる。


「おお・・・!」


初めての仮想空間に大和は感動を覚えた。

まだPAOのフィールドには立っていないのだが、この空間だけでも現実と区別が付かない程の精巧さであった。

大和はしばらくキョロキョロと辺りを見回し、感嘆のため息をつく。

また、見回す途中で自身の服装が学校の体育の授業で着るようなジャージ(青色)である事にも気付くが、服装にこだわりを持っていない為、動きやすそうで良いやと肯定的な感想を持ち、開発陣の服装センスについては特に気にならなかった。


「おっと。とりあえず彼女に話し掛けないと」


ログイン前に目を通した説明書マニュアルで、この空間がプレイヤー登録および基本動作確認チュートリアルの場であり、中央にいる女性がガイドNPCだという事を理解している大和は、緊張した面持ちでNPCへと歩みを進めた。


「初めまして。パラレル・エイジ・オンラインへようこそ。こちらではプレイヤー登録を行います。まずはプレイヤーネームの登録をお願い致します」


NPCへ近付くと、笑顔と共に一礼し、にこやかに登録の手順を説明してくれた。

まずはプレイヤーネーム登録からという事で、大和は事前に考えていた自身の名字をもじった『ユウ』で登録を行った。

続いて、顔、身体と登録する事になる。

性別については、ゲームをログアウトし現実に戻った時の意識に支障をきたす恐れがある為、現実の性別で固定されている。


また、顔や身体についてはヘルメット型デバイスから発する特殊な音波が、身体を包み現実の身体をスキャンするので、標準の姿は現実の自分そのままである。

そこから顔、身長、体重、体型等をある程度弄る事ができるのだが、一つ一つ弄っていくと時間がかかりそうなので、大和は全て現実の自分と同じままにした。


ちなみに彼は知らないが、PAOではプレイヤーの身体数値もゲーム内の運動能力に影響する。

その為、素早く動きたいなら痩せ型、力強くしたいのなら筋肉質型といったように、身体を弄るプレイヤーがほとんどであった。


『ユウ』の姿が決定したところで、次に基本動作確認に移り、NPCの指示通りに動く。

現実の身体と同じである為、動作や認識にズレが生じたり、違和感を感じる事もなかった。

逆に身体を限界数値ギリギリまで弄ったプレイヤーは、その身体に慣れるまでに時間がかかりそうである。


こうして、プレイヤー個人の運動能力が決定される。

この運動能力はプレイヤーの基本値とされ、ステータス画面には表示されない。

各プレイヤーによって基本値のばらつきがあるのは不公平かもしれないが、ステータスポイントの重要性と、ポイントの振り分けの面白さを認識できる良い手段だと開発陣は考えている。


元よりオンリーワンスキルの時点で不公平なのだ。

基礎値にばらつきがあるくらいどうって事もない。

むしろ、基礎値にばらつきがある方が選択の自由度を上げ、ゲームを面白くさせるのではないか。

これについてはプレイヤー側も同意見の者が多いようで、開発・運営に対する批判メッセージの数はそう多くはなかった。


基本動作確認チュートリアルを完了させると、ステータスやアイテム使用の説明があり、最後にオンリーワンスキルの付与と、初心者武器の贈与があった。

ちなみに初心者防具はジャージ(青)である。


大和ことユウはドキドキしていた。

他のプレイヤーほどスキルに固執していないとはいっても、やはり、できれば強力なスキルが欲しい。

VRMMO初心者である自分が強スキルを引き当てるはずがないと自嘲しながらも強さを望むのは、ユウも男だからだろう。


まずは初心者武器を選ぶ。

武器がいくつか現れ、ユウは1つ1つ持って確かめる。

最終的に扱いやすかった片手剣を選んだ。


そして、いよいよスキルの付与である。

ユウはNPCの言葉に従い、何かを掬うかのように両手を前に出して、片膝をついた。

すると、両手の上に青い光が突如現れ、しばらく浮遊した後、ユウの胸に吸い込まれていった。


ー ピロン ー


ゲームの通知音が鳴り、NPCにステータス画面のスキル登録情報を見るよう促された。

ユウがドキドキワクワクしながら、スキルを確認すると

ーー


【オンリーワンスキル】


ドラゴンズ握力グリッパー


①発動から30秒間、右手の握力が竜の握力それと同じになる。

②1時間後に再使用可能。



「おおおお 、おおお?」


『竜』と付くから強い攻撃系スキルかもしれないと喜んだユウであったが、スキル説明を見て首を傾げた。

弱くはないが強いかと言われれば疑問が出る。

そもそもドラゴンの握力がどれほどなのか分からない。


まあ、使い方など考える事は多いが、今はPAOをプレイするか。

ここで悩むよりも、実際に使用した方が使い道も思い付くだろうと、ユウは持ち前のポジティブ思考を発揮し、PAOのフィールドへおもむく事を決めた。


NPCにお礼を言い、ユウはPAOのフィールドへと繋がるサークルへと足を踏み入れる。

その直後、サークル上に魔方陣が浮かび上がり、眩しい光を放った。


眩しさが治まった後のサークルには、ユウの姿はなかった。

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