第2話

……ああ、絶体絶命だ。生きて帰ったら何を食べるか決めておかないと。うーん、ファミリアだね。まるまる一つ。

……じゃあ、なんとかしないといけない。弾がなくても銃は銃だ。脅しには使える。重要なのは弾がないことを悟らせないこと。そして銃を印象づけること、だったよね。お母さん。

私はゆっくりとスライドをずらし、弾を込めたふりをした。これでよし。あとは、勘だのみ。弾のない銃が効かない相手なら向けてようが向けてなかろうが意味がない。効く相手ならそれは人間だ。ヘビも熊もそれぞれ効かないからね。ヒトなら、多分、おそらく、あっちだ。あっちにいる。あっちは車のある方向だ。私たちの車を崖に落としたやつだろう。それ以外の理由でここにいるのは考えられない。

「……出て、来なさいよ。痛いわよ?」


張りつめた緊張の中、木の影からなにかがゆっくりと出てきた。それは森の闇にきっちり身を隠しながらも、姿を表した。

「……出てきたぞ。だが悪いな。俺に銃は効かない。」

「へー、そう。人間がみんなそうだったなら、良かったのに。」

武器がなくても言葉で戦うのだ。落ち着け。私は双葉の娘。言葉をやり取りする人間のはしくれ。

この拳銃のスライドの縦幅は確か5センチ。私の腕の長さはおおむね50センチ。相手との距離は、だいたい16ってところか。……もう少し、近寄りたい。

もう少しで、最後の奥の手が使える。

「……で、何の用なのよ……」

震えながら立ち上がる。

「まあ、良くあるやつだ。口封じ。俺は追われる身なんでね。そろそろ足跡を消したい。」

交渉の余地なし。でも、落ち着け。この程度のピンチは、何度もやった。余裕で切り抜けられる。

一歩、近寄ってきた。

「そ、それ以上よったら撃つよ!」

「撃てよ。言っただろ?俺には効かねえ。撃っていいぞ。」

……いける。勝てる。こいつは多分本当に銃弾が効かない。しかしそれゆえにずいぶん慢心している。不用心に近寄ってきてるし、暗殺者とかそういう類いでは無さそうだ。

その顔が月光の元に入ってきた。もうちょっと……!?

それは、電子レンジだった。頭をすっぽり覆うように被った電子レンジ。首元にはネックレスのようにミキサーが巻き付けられていて、腕からはケーブルに繋がれた電気ケトルがぶら下がっている。

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