公募に出してみた

 今年のシレアは雨季がなかなか明けず、雨音が窓の玻璃を叩く日が続いていた。ただし湿度が高くともシレア城は通気性にも優れ、重鎮から下働きに至るまでそこまで不快になることもなく過ごしている。

 中でも二人の城の主人は天候などものともしない。日々城中に活気を振りまいては政務を執り仕切っているはずである。

 しかしながら、今日はそのうちの一人の様子がどうにもおかしい。それに初めに気がついたのは外でもないの腹心だった。


「……下……、殿下?」


 カエルムは、主人あるじを見つけた側近の声に、ふっと我に帰った。


「探しましたよ。どうしたんですか」


 カエルムが書類を持ち込んでいたのは普段の執務室ではなく城の書庫だった。入ってくる足音にも気がつかないとは、この人物にしては珍しい。


「ああ、ロスか。悪い。まずいな、集中力が切れていた」


 目の前の書類に視線を落とすと、先ほど起草していたところがまだ空欄だったことに気がついた。どれくらいの間、呆けていたのか。普段ならさっさと終えてしまう単純な内容である。

 ロスは常ならぬカエルムの様子に心底不安を感じ、その顔色を見てわずかならずぎょっとした。


「殿下、御休みになられた方が……今日仕事しすぎとかじゃないですか?」

「いや……むしろ進んでいないくらいだ」

「そろそろ夕食なのにいらっしゃらないのでお呼びしようと思ったのですが……食べやすいものに変えるとか、料理長に頼みましょうか」

「ん、あぁ、そうだな……料理長には悪いのだが、私の分は少なめにしてもらってくれるか。後で部屋でとるから」


 分かりました、と述べてロスは書庫を出た。おかしい。カエルムが政治など以外で浮かない顔をしているなどとはほぼあり得ないことである。えも言われぬ不安が胸のあたりにうずき始め、ロスは戸を閉めてなお、そこから立ち去り難かった。

 するとちょうどよく、この事態を聞くのに最適な人物が廊下の向こうに姿を現した。


「あ、姫様。ちょっとよろしいですか」

「ん? なあに、お兄様、書庫だったのではないの?」

「いやいらしたにはいらしたのですけれど、あの人どうしました」

「え?」

「不気味なんですけど。あの殿下が長雨の湿気よりも鬱陶しく沈んでるとか」

「あ、あぁ、そっとしておいて差し上げて」


 ロスの失礼千万な物言いも特に咎めず、王女は眉を下げて苦笑した。


「この間、諸外国から募集して書を作ろうという案件に参加したでしょう?」

「ああ、中から興味深いもので広範囲に普及するに足る話を選んで、文化政策の促進に役立てようという……姫様の秋の一件を出したのでしたっけ」

「そう、それよ。残念ながらね、採用されなかったの。応募は五百近くあったそうよ」


 シレアからは何を出そうか、ということで、ロストカエルムがテハイザに赴いていた際、自国で起きた奇妙な話を提出したのだった。シレア国内にしてみれば大事であったが、内容や書き手の腕を他国と比べたら数には入らなかったらしい。王女は肩を竦めてみせた。


「そんなに世の中甘くないわねってことなのだろうけれど……お兄様にしてみると、選考基準に人物の特性とかが入っていた上での落選が……——まぁつまり、私とかがいかに読み手に訴える人物かってところも足りなかったっていうのがね、お兄様には……えぇ、まあ、そういうわけ」


 ロスを促して書庫から離れ、廊下を歩きながら王女は説明した。


「……要するに相変わらず安定の妹馬鹿ってことですね……お元気そうで安心しました」


 どうせ妹至上主義な落胆だろう、そう思ってロスがわざとらしくため息を吐くのに、王女は手をひらひら振ってこざっぱりと笑う。


「ねぇ、私だってそこまで行けたら素敵だけれど……だったらむしろお兄様が出たら良かったのにって思うじゃない?」

「……仲のよろしいことです」


 ***


 こんばんは。角川キャラクター小説大賞、落ちてしまいました〜。何段階か選考があるので、一次くらいは行きたい! と思ったものの、あえなく落選。くう、悔しいですね、やっぱり。

 シレア王女のお話、『時の迷い路』を出しました。

 こういう公募ものは応募数が多いので、選考委員の方が一次などの段階では全作品はお読みにならない、と聞いたことがあるのですが、この選考は読んでくださったのかな? だとすると荻原規子さんが読んでくださったということになり……

 このエッセイで前に書いた通り嬉しい反面、それで擦りもしなかったのは、それはそれで悔しい恥ずかしいなぁ……と、いざ開示されると以前書いた「読んでもらえればそれで!」というのと矛盾した気持ちが起こってしまいました。そんな自分も恥ずかしい。


 で、まぁ落ちたら落ちたなりにスピンオフでネタにしました。

 こんな殿下もいるかもしれない。

 と書いていながら「いや、いないだろう。あの人多分、そこまで動じないだろうな」と思っています。こんな殿下気持ち悪いわ。

 登場人物って生き物ですね。勝手に動く。


 スピンオフのために上のように書きましたが、落選理由は妹以外にも構成とか、文章とかいろいろだと思います。カクヨムコン落選だった殿下が主役の姉妹編はより難しかったかも、とも感じます。


 もう一度、紙印刷をしてじっくり読み直して、別の公募に出すかどうか……それとももう、ダメなものはダメなのか、という迷いにいます。まさに迷い路。


 前にオススメされた公募という手もありますがこちらは来年。どうしよう、諦めたくないなってあたりが往生際が悪すぎるなぁ、と呆れもしますが。


 お仕事の方は終わりが見えないので、一つ一つ、ちょっとずつでも頑張ろうと思います。

 今日は熱が上がってきてしまっていたので、あまり進まなかったんですけどね。こういう時に無理をする方がダメかな、と甘えたりもしてみました(ダメじゃん)。本日は読む方も殆どできず。


 夏の暑さが苦手なのですよ〜。夏撲滅委員会。去年の夏も暑かったですよね。いろんな意味で。


 今月が後三日しかないのに驚きつつ、数ヶ月、同僚達と会っていない、友人と会っていないという事実にショックを受けつつ、公募落選に寂しいながら苦笑いな感情を覚えつつ〜……


 今日は早めに寝た方がいいのかな?


 とりとめのなさすぎるエッセイでした。前半を楽しんでいただけましたなら幸いです。


 せっかくだから作品紹介。妹王女の奮闘です。以前、とても素敵な感想をいただいたので、今度そちらも自慢させてください♪ 面白いと言ってくださった方がいらしたことには感謝するのと、自分のお話にも「良かったとこもあるさ!」と言ってあげたいです。


『時の迷い路』

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054889868322


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