私と彼との365日メッセージ

猫のまんま

秋の季節

 私のいる病室からは、桜並木が見える。今は、夏も過ぎて葉が落ちかかっていた。

 近所の人なのか、それとも枯れ葉掃除の担当の人なのかはわからないが、もうすでに、落ちている葉を集めている人がいた。私は、それを呆然と眺めた。


 意味などはない。ただいつもと変わらず、桜並木を掃除する人を眺めるのが、クセになっていた。


 クセと言うか、習慣に近い。

 

 病室というものは、いつもいつも、変わった変化はない。ただ、病気の人や怪我人が世間話をする。それだけだ。


「はぁ……」


 私は、深いため息をついた。


 手に持っていたスマートフォンを眺めると友達からきたメッセージが写し出されていた。


『はやく、よくなってね! みんな、待ってるよ!』


 私が、病室で起きたときに見たメッセージだった。私は、気づいてすぐに返信を返した。

 しかし、未だに友達からの返信はかえって来なかった。


「みんな学校かぁ……いいなぁ」


 再び、窓の外を眺める。外を見ても変わらない風景と、変わらない日常。でも、どうしようもないこの状況がとてもツラい。


 病院は、私にとって監獄以外のなにものでもなかった。







「……大丈夫か? みんな、お前を心配してたぞ?」


「大丈夫。いつものやつだから……」


「お前さ、また気持ちが暗くなってるだろ?」


「……ほっといて」


「ほっとかねぇよ。大丈夫だって、みんな気にしてないから早く戻ってこいよ?」


「……」


「……待ってるからな? みんなも俺も」


「……わかった。でも、病院の先生に話を聞いてみたけど……大会には間に合わなそう。ごめんね」


「いいから、いいから。大会の方は、俺と部活のメンバーでなんとかするから大丈夫だって。心配するな」


「心配するなって言っても、心配だよ……」


「なら、早く元気になれ。そしたら、またすぐに復帰できるさ」


「そうだけど……」


「気持ちで負けるな。お前は、強いやつってことを俺は知っている」


「……」







 私は、まだ学校いるだろう幼なじみの彼との、スマホのメッセージを眺めて返信に困った。

 私は強くないよ、って書こうしたけどやめた。彼の気持ちで負けるな、の言葉が私にささったからだ。

 今頃は、彼や他の部活メンバーは大会も近いので、練習をしてるに違いない。そんな中、私だけが気持ちで負けるのはおかしいと思う。


 私は、演劇部に所属していた。高校生になって初めての部活動。中学生までは、部活をしても、私の体調不良のせいで他の人に迷惑がかかると思ってやっていなかった。

 高校生になって、初めて部活動というものをする。きっかけは憧れ、だった。


 高校生になりたての時、部活は新入生のために部活動紹介をする。私は、その中の演劇部の舞台を見て、憧れた。

 短い紹介時間の中、ちゃんと物語が作り込まれていて、役者たちもテンポよくセリフを言ったりしてた。たまに、アドリブを交えて、新入生を笑わせていたりもした。


 これは、凄い。本当に凄いと、私は思った。


 そもそも、入院ばかりしている私は、病室では基本暇だった。そんな私の話を聞いて、幼なじみ彼は、私にお見舞いと称していろんなものを持ってきた。


 本やレンタルのDVD。ボードゲームやトランプなど、様々だ。その中でも私は、本をよく読んだし、DVDをよく見ていた。

 本は、基本人気作品の文庫を、彼が買って来ていた。DVDに関しては、ドラマが一番多かったけど、たまに舞台ものが入っていることがあった。きっと、隣のコーナーにもあったものなんだろうと思って、気には止めてなかった。


 そして、その舞台ものを軽い気持ちで見たとき。私は、驚いた。


 ドラマとは、違う緊張感に緊迫感。物語が進むごとに、まるでDVDを見ている私が、その物語の中でいて登場人物たちを間近に感じてるかのような親近感をおぼえた。


 なにこれ。


 舞台もののDVDを見終わった私は、感動してしまって、まだ興奮が冷めきっておらず。その物語で感じたことを、そのまま幼なじみの彼に、私は話した。


 じゃあ、お前もやってみろよ舞台。俺も、やるからさ。


 幼なじみの彼は、私にそう言うと私と同じの高校で、演劇部のある学校に進学した。私は、とても嬉しかった。

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