Another world line.
物語は全てが筋の通った話ではない。
何故なら全ては君達の知る事ではないからだ。
でももし、彼女が救われる世界線があったとしたら、、
そうなるよう願い、彼女の話を遡る。
「俺らはここを売ったり出来ねえ。」
中年の頑固な男が村を忘れられずに怒鳴っている。
村を大切に思う気持ちはとても素晴らしいが、
それを周りに当たり散らしてはいけない。
村長を囲むように周りには沢山の村人がいる。
女性はとても心配そうに語る。
「ずっとここで暮らしてきたのよ。
ここ以外に私達の住める場所はないわ。」
彼女もまた、住まいに。今の村に親しみがある。
おばあさんは泣いていて、若者は怒っている。
ここに住んでいる者は皆、いい子ばかりだ。
いくつ歳を重ねようとも、私からすれば皆子供だ。
子供らは互いを助けあい、互いに尊重することができる。
村長「何事にも永遠なんてものは存在しない。
時代は変わりゆく。どっちにしろ村を継ぐ若者も少ない。
先を見据えなさい。これでいいのだ、これで。
場所は違えど、私達の絆が無くなる訳ではない。
豊かに、便利になる。とても有難いことだ。
氏神さまも許してくれるだろう、、」
子供らが話しているのはダム建設があり、
この村が沈んでしまうことになったからだ。
子供らは猛反発した。だが、時間は待ってくれなかった。
半強制的に子供らは移住することが決まった。
人間の時間というものは実に短い。
そして、それは仕方のないことだ。
私は寂しくあった。この場が好きだったから。
子供らの成長をここで見守りたかったが、
出来なってしまうのはとても悲しいことだ。
だが、何事にも終わりはくる。
村には何も無かったが、子供らはとても幸せそうだった。
子供らは本当の意味での幸せを知っていた。
今のこの時代には本当の幸せを知るものは少ないだろう。
とても大きな村は子供らの為に、住む場所や、金銭を提供した。
大きな村はこことは違い、何かと便利だそうだ。
私はそれでいいと思った。ここに囚われる必要はない。
子供らが幸せでいられるのであれば、私はそれで良かった。
子供らが居ない村は静かだった。そして、とても寂しかった。
そんなある日、良くない事が起こってしまった。
子供らは不安や不満を抱えながら、移住したはずだった。
だが、村へ来た者が居た。村に住んでいた若い女性だ。
彼女は何かを探しているようだった。
村は勿論立ち入り禁止だった。
彼女「うめ、うめ?」
私「うめ?なんだそれは。」
記憶を遡る。
あぁ、彼女は猫を密かに飼っていた。
「猫のことか。」
私は急いで猫を探す。
なんせ、いつ村が沈んでしまうかわからないからだ。
「早く探して返さねば、、」
すると雨が降ってきた。
雨は勢いを増し、音を立てて段々と強くなった。
私はふと、思い出す。
「確かあの猫は村人が連れて行ったはず、」
!!
「ウゥウー」
警報がなる。遅かった。
私は急いで戻る。彼女はまだ探していた。
「音が、聞こえないのか!!」
私は風を操り、社の扉を開ける。
私の力では彼女を遠くへと飛ばすことは出来ない。
彼女には私の声は届かない。彼女を守らなくては、、
「どうすればいい!!」
そしてある考えが頭を過る。
「ニャォ」猫の真似をしたのはこれが初めてだった。
彼女「うめ、そこにいるのね、、」
彼女は社の中へと入って行った。
私は全ての力を遣い、彼女をこの時間へと閉じ込めた。
私は私の子供を守りたかったからだ。
不甲斐ないが、私が出来るのはこれしかなかった。
そして私は彼女と水の底へと沈んでしまった。
これが彼女の話だ。私はつくづく使えない神だと思う。
そして、これからは彼の話をしよう。
彼は私の時間に捕らわれてしまった。
村が沈んでしまってからは人が何人と、自らの命を断ちに来る。
短な時間を自らの手で無くしてしまうのはとても愚かな事だ。
彼等は暗い底のない場所へと沈む。
もしかしたら、今の世界では人間が生きずらいのかもしれない。
時が過ぎるとそう、考えられるようにもなった。
信仰もなくなり、私の力は日に日に弱っていく。
彼女だけは、彼女の時間だけは守らなくては。
ダムの水が干上がると、彼女の意志は自由に行動し始める。
私の力が弱くなった証拠だ。彼女は幽霊と呼ばれた。
そんな時に彼は来た。月の満ち欠けるその日に。
緑が生い茂り、蝉の鳴き声が響き渡るとても穏やかな所。
暑さはあるが、からっとしていて気持ちがいい。
水のせせらぎが微かに聞こえ、
それでいて彼がどこか懐かしくも思う所。
彼はそこから何度も繰り返す。
彼が懐かしく思うのは何度もそれを繰り返しているからだ。
彼は自殺をしたが、現実には失敗した。
いや、彼女がそうさせた。
そして、彼は私の時間に捕らわれることになった。
彼がしばらく歩くと人集りが出来ている。
僕「ここは、、」
彼には彼等が見えているが、彼等は彼が見えない。
それは私の時間であり、幻想だからだ。
彼は少しずつ彼女の存在に気付けるようになった。
それはとても小さくて、か細く、
今にも切れてしまいそうな最後の糸のようなものだった。
私は彼に彼女を救って欲しかった。
だから私は彼を返さなかった。
正確には彼をここに居させた。が、正しいがそれは省こう。
彼女を彼が見付けて彼女と一緒に返す。
それまでそれをただひたすら繰り返す。
命を途中で投げ出した罰だ。
人生から逃げた罰とでもしよう。
彼は思いの外、思い通りに動いてくれた。
何回か。いや、何十回か、何百回か繰り返したある時。
彼は彼女を見付ける事ができた。
彼はようやく生きていたいと思ったのだ。
いや、そう仕向けたが、正しい。
最初から出口はあったが、それは求める者にしか見付からない。
見ようとしない者には見えないのだ。
生は彼女と繋ぎ、死は村の水没を意味する。
死とは同じことの繰り返しであり、
生とは全てがいずれも異なる唯一無二である。
私にはもはや力などは残っていなかった。
彼の霊が肉体へと戻る力で彼女の止まった時間ごと、
現世へと戻す手筈だった。まさにシナリオ通り。
彼は生きていきたかった為に生にすがり付いていた。
だから私は彼に手を伸ばす。
そして私は猫をやめて、彼女を送る。
私は役目を終える。だから悲しい終り方は私だけでいい。
せめて、彼等には幸福を。
「ーーー、〰️、〰️〰️ー。」
「そのはら、、そのはらさん。そのはらさーん、、」
「そのはらさんてば、、もぅ。しつこい!」
「ビシッ!」
顔をひっぱたかれたような感覚が残る。
僕「痛っ、何すんだっ、、」
気が付くとそこには幽霊が僕の顔を覗き込んでいる。
彼女はとても不機嫌そうだ。
彼女「いつまで寝てるのよっ。風邪引くわよっ?」
僕「??」
彼女「全く、自殺するなんてバカよねっ。」
僕は身体を起こし、立ち上がる。
彼女「もう二度としちゃいけないんだからねっ?」
僕「?」
彼女「わかった?」
一方的な言葉にただ返事をする。
僕「はい。」
そして彼女は満足そうに僕の手を繋ぐ。
僕「え、、////」
彼女「これでいいのよ」
彼女は遠くを見るようにダムの中の村を見つめる。
ダムの上を渡りきろうとした時だった。
「チリーン、」
鈴の音が鳴り、一瞬暖かく感じ、
何故だか見守られてるような気もした。
あれからいくらか時が経ったが、今でもたまに思い出す。
彼女との出逢い。何故だか、猫を見ると懐かしく思う。
蝉の鳴き声がうざったく響く、この夏の日には
彼女は花をダムの側の湖に供えにいく。
そう、彼女と出逢ったあの場所へ、
TURE END.
蝉の鳴き声がうざったく響く、こんな夏の日には彼女を思う。 影神 @kagegami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます