忘れてしまった記憶


男性の怒鳴り声、そしてその周りの沢山の人の小さな声。


男性「俺らはここを売ったり出来ねえ。」


女性「ずっとここで暮らしてきたのよ。」


誰かは泣いていて、誰かは怒っている。


おばあさん「何事にも永遠なんてものは存在しない。


時代は変わるのさ。どっちにしろ若者もいない。


先を見据えなさい。これでいいのだ。これで。


場所は違えど、私達の絆が無くなる訳ではない。


豊かに、便利になる。とても有難いことだ。


氏神さまも許してくれるだろう、、」


そして誰かは悟る。それしかないのだと。




いろいろなどこにも当たりどころのない、


不甲斐なさのようなぐにゃぐにゃとしたものが


僕の感情に関渉する。






僕「ここは、、」


緑が生い茂り、蝉の鳴き声がうざったく響く。


暑いが、何故だかさらっとしている。


水の音が微かに聞こえ、それでいてどこか懐かしくも思う。


僕「ここ前に来たことあるのか?」




誰も居ない村。ここへ来てからどのくらい経ったのだろう。


僕「ここは輪廻か何かか??」


僕はただ村をひたすら歩く。


何日か経つと、警報が鳴り、大きな水が押し寄せる。


何日というのも、正直わからない。


時間や日数の感覚がない。


ただ確かなのは同じ景色がループするということ。


まるで映画のワンシーンかのように、


自分の背丈の何倍もを越える水の塊が、


強く強引に激しい音と共に押し寄せてくる。


苦しくはない。


だが、誰かの声がする。


それはとても小さくて、か細く、


今にも消えてしまいそうなくらいに。




それをただひたすら繰り返す。




見えない人の声が聞こえ、


心が胸焼けしたみたいにムカムカする。


気が付くと地面に倒れていて。


僕は村を歩く。


しばらくすると警報が鳴って、沈む。




僕「はあ、、流石に飽きた。」




そう、きっと命を途中で投げ出した罰だ。


人生から逃げた罰。




しかし、僕は何故か開き直れた。




僕「にしても何でだ、何故ここにいる。


何の意味がある。何故、繰り返される?


何か意味があるのか??」


ひたすら沈むまでの村を散策する。




村はある一定の範囲内を越えると強制的に、


倒れていた元の場所へと戻ってくる。


建物の中には入れない。


何か見落としがないか、探し歩く。


お腹は空かないし、眠くもならなければ、日も沈まない。


ずっと日中。




何回か、いや、何十回、何百回か繰り返したある時。


ふと、神社が現れた。


今までは無かったのに、突然。


神社の扉は誰かが開けたかのように、ホコリに跡がついていた。


僕はそっと、扉へと手を伸ばす。


誰かが中で泣いている。




女の子「ごめんね、、気付けなくて、でも大丈夫。


きっと氏神さまが何とかしてくれるわ。」


猫「ャ~ォ」




僕は思いきって扉を開けた。


光が輝き、僕は光へと飲み込まれる。






「ーーー、〰️、〰️〰️ー。」


「そのはら、、そのはらさん。そのはらさーん、、」


「ニャ~ォ」顔が冷たい。


何かざらざらとしたようなものが顔を撫でる。。


「そのはらさんてば、、もぅ。しつこい!」


「ビシッ!」


顔をひっぱたかれたような感覚が残る。


僕「痛っ、何すんだっ、、」


気が付くとそこには見たことのあるような女性が


僕の顔を覗き込んでいる。彼女はとても不機嫌そうだ。


彼女「早く帰りなさい。」


僕「??」


彼女「帰りなさいってば!!」


僕は彼女が抱えている猫を押し付けられる。


猫「ャ~ォ?」


僕は身体を起こし、立ち上がる。


彼女「もう二度と来ちゃいけないんだからねっ?」


僕「?」


彼女「わかった?」


訳もわからず、一方的な言葉にただ返事をした。


僕「はい。」


そして彼女は満足そうに何処かへ行った。




彼女「これでいいのよ」


猫「ニャォ」




僕「なんだったんだ。今のは、、


にしてもきたねえな!?なんだこりゃ、」


全身泥だらけで、服が湿っている。


僕はただ帰り道へと急ぐ。




ダムの上を渡りきろうとした時だった。


「チリーン、」


鈴の音が鳴り、一瞬泣いている女の子の映像が頭に写された。


僕「なんだこれ。


、、何か忘れてはいけないことを


忘れてしまっているような、、、、、


っ、」


体に激痛が走る。


僕「いてええええ、、、!!!」




あれからいくらか時が経ったが、今でもたまに思い出す。


あの時僕はあそこで何をしていたのか未だにわからない。


何故だか、彼女と猫を懐かしく思う。




蝉の鳴き声がうざったく響く、この夏の日には彼女を思う。






END.


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