蝉の鳴き声がうざったく響く、こんな夏の日には彼女を思う。
影神
月が満ちるまで
彼女との出逢いはじめじめとする
うざったいあの夏の夜の事だった。
僕は何処にでもいるような陰キャというものだ。
小学校、中学校、高校と、出来るだけ目立たないように、
必要最低限の人との関り合いでなんとか過ごした。
人との関わりや面倒ごとは大嫌いだ。
両親は僕が小さい時に事故で死んでしまった。
日曜にお昼を食べに行こうと少し遠いレストランへ行く途中、
大型のダンプカーが突っ込んできた。あっという間だった。
気付いたら僕は病院のベッドだった。
奇跡的に、僕だけは無傷だった。
その時、両親の姿はもうなかった。
遺体は目を向けられたものじゃないぐらい酷かったそうだ。
両親は反対を押しきって結婚したようで、
葬儀の時には両親の悪口が絶えなかった。
僕「この人達は、なんでここにいるんだろう?」
子供ながらに疑問に思った。
身寄りの無い僕は親戚をたらい回しにされた。
そんな僕には風当たりがとても強かった。
結果いろいろとあり、僕は人間が嫌いになった。
人間不信と言うものだ。人間は信じられない。
因みに僕は今ダムの上に居る。
ここは有名な心霊スポットというところ。
そして、それと同時に自殺のスポットでもある。
そう、『もう疲れた』のだ。
人間が心底嫌いで、
同族の自分に嫌気が差して今ここにいる。
柵を乗り越えようと脚がかけられそうなところを探していると、
女性「こんばんわ。
今夜は月が綺麗ね?」
背後から声が聞こえた。
ここは心霊スポットでもあると言ったが、
中でも女性の幽霊が出てくると有名だ。
その幽霊は話しかけてくるそうで、
今。当に、その状況である。
僕「こんばんわ。」
僕は普通に会話を続ける。
自殺防止の為柵が高いのと、
カメラがあって電気がつけられないのもあって
なかなか先へ進めない。
女性「ねえ?あなたさっきから何をしているの?」
僕「この先へ行きたいんです。」
僕は幽霊と言葉を交わす。
女性「その先には何もないわよ?」
僕「いいんです。それで。」
暗くてあまり見えないが、シルエットだけわかる。
女性「あなた普通に私と会話するのね?」
僕「あなただって僕と会話してるじゃないですか、
あなたこそこんなところでなにしているんですか?」
何してるかなんてこんな僕が今問えることではなかった。
返答を誤った。しかし、女性は普通に答える。
女性「月が満ちるまでまってるのよっ、」
僕「そうですか、、それはそれは」
僕はただ受け流すかのように会話を返す。噂は本当だった。
きっとその時の僕は異常だったから、普通に話せたのだろう。
彼女「あなたお名前は?」
僕「そのはらです。」
彼女「そのはらさん、ね、」
僕は幽霊に自己紹介をした。
僕「あなたはずっとここにいるんですか?」
彼女「そうよ。ここから離れられないの
でもあと少ししたら自由に動けるわ。」
霊はよく居場所に囚われると言うが、
そういった類いのものなのだろうか。
別に幽霊に興味があった訳ではなかったが、
自殺の場所を調べるとおのずと
心霊というものが付いて回ってきた。
それで、エセ霊媒師が語っているのをたまたま見た。
別に幽霊だろうがなんだろうが、そんなのどうでもいい。
僕は今死ぬのだから。
今日まで、長かった。
両親が死んでから、いつも考えた。
僕は孤独だった。
心に穴が空いていたように、心はいつでも冷えきっていた。
何を食べても味はしないし、
音や空気がよどんでいて、常に息苦しかった。
誰かに愛されたかった。分かって欲しかった。
気が付くと僕は泣いていた。走馬灯というものだろうか?
彼女「大丈夫?、」
不意に話しかけられて動揺する。
僕「ええ、あなたこそ大丈夫ですか?」
彼女「優しいのね。あ、そうそう、
もう少し右に上らないとうまくいけないわよ」
僕「ありがとうございます。」
彼女は僕のやることを知っていた。
別にとめて欲しかった訳ではなかったが、
「とめないのだな、」と思った。
僕はまだ生にすがり付いていたかったのかもしれない。
そもそも幽霊がとめるわけもない。
僕は思いきって上がる、絶ちきるかのように。
上は緩やかな風が吹いていた。ダムはとても静かだった。
月が綺麗だった。雲がよけ、夜空が開く。
暗くてシルエットだけだったものが見えるようになった。
彼女はダムに映る月を見つめている。
月灯りに照らされ彼女の顔が一瞬見えた。泣いていた。
それを最後に僕はバランスを崩して落ちる。
「どうしして泣いているのだろう、、」
僕は薄暗い夜空を見上げながら落ちる。
一瞬だった。
激しい痛みと共に視界が暗くなる。
おやすみ。
そしてサヨナラ、
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