えくすとら! 苦悩に満ちた、後輩の日々

 僕が、部活の先輩を好きになったのは、最初の出会いがきっかけだった。

 僕はこんな性格をしているから、友達や知り合いは少ない。だから、僕には人との距離の取り方がよくわからなかった。


 そんな僕に、いつも先輩はぐいぐい距離をつめてくる(物理的に)


「ねぇねぇ! 後輩くん! このラノベどう思う? 面白いと思わない!?」


 まだ、僕が読んだことない本のことをさも僕が読んでいるかのように先輩は僕に聞いてきた。


 ……てか先輩、本を見せようとして胸が当たってる。


 「何? 後輩くん、天井なんて眺めて? そんなに面白そうだった?」


 そういうことじゃないよ! バカ先輩!


「……すいません、読んだことないです」

「そうなんだ。でも、面白いから絶対読んでみて! はいこれ!」


 ドサドサ。


「なんですか……これ?」

「え? このラノベの全巻」

「……なんで、全巻持ってるんですか?」

「持ち歩いてるから、私」

「……」


 ……マジか! この先輩!


「……とりあえず、1巻からでいいです」

「えぇー全部読んで見てよー! 面白いから!」


 量がヤバいだろ!


「いや、とりあえず一冊で……」

「----大丈夫、大丈夫! 私は、何回も読んでるから!」

「別に、すぐに読めないからって訳じゃないですよ! ただ、持って帰るのが大変だなと思ったんですよ! 僕は!」


 しまった、また先輩のペースにのせられてツッコんでしまった……僕は、そんなキャラじゃないのに!


「慣れるから、だいじょうぶ!」

「慣れたくないですよ!」


 見るからに、文庫本が十冊ぐらいある。先輩はいつもこれを、持ち歩いてるのだろうか。


「そもそも……なんで、こんなに持ち歩いているんですか? 重いでしょ?」

「それは、私が面白いって思ったから! これは早く、誰かに伝えなくてはと思って!」


 だからって……やっぱり、バカだ。この人。


「ああ! その目! 私が勧める本が面白くないと思ってるでしょ! 面白いんだからね! 本当に!」


 そういう意味で、先輩をそんな目で見ていたわけじゃないんだけど……まぁ、言っても無駄か。


「……はぁ」

「ああ! また私にため息ついたね! 私、怒っちゃうよ! ぷんぷん!」


 ぷんぷんって、なんでこんな先輩を僕は好きになってしまったんだろうか……文化祭の小説も先輩に見つかる前に回収できて、本当によかった。


「絶対、読んでね!」


 そう言って、先輩は結局ラノベを全部、僕に渡してきた。


「……持って帰りたくないだけでしょ?」

「ぶ~、ぶ~」


 先輩は、吹けない口笛を吹いていた。


 ……だから、なんでこんなに持ってくるんだ先輩。


 僕は、仕方なく先輩が渡したラノベをバッグに入れた。心なしか、バッグの重さが倍以上になった気がした。


「絶対、面白いから!」


 それを見ていた先輩は、笑顔でもう一度僕に同じセリフを言った。……なんとなく、バッグが少し軽く感じた。


 僕も、先輩と同様で単純なのかも知れない……。


「……はぁ」

「えへへ! 楽しみだな~!」


 まぁ、いいか。先輩の読む本は、僕の好きなものに似ているから。


 先輩を、僕は見た。


「……先輩、バカ可愛いですよね」

「え、可愛い? ありがとう! 今日は後輩くん、優しいね!」


 どうやら、都合の悪いことは先輩には聞こえないらしい。


「……やっぱり、バカなだけだった」

「なにおう! 後輩のくせにぃ!」


 先輩は、僕に掴みかかってくるが、僕は軽く避ける。その度、先輩は顔を真っ赤にして追いかけてくる。


 こんな日常の僕は、先輩に出会う前の自分を、もう思い出せそうにないぐらいに幸せだ。


 そんなことは、絶対にバカな先輩には言わないし。きっと……先輩は、気づかないだろう。




 皆さんは、こんなバカな先輩を嫌いになれますか?

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あまり頭がよくない文系の本好きで、何が悪い!! 猫のまんま @kuroinoraneko

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